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□『片想い』
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「え?俺のこと好きなの?」

なんて、
真顔で言われちゃったら

「…そんなことないよ。」

ってしか言えなくて…

見渡せば、絵の道具…釣竿…粘土…
油絵の匂いが漂う、生活感のない部屋で
あの日、終わりのない片想いを突き付けられた。

「……だよね。あーっと……変なこと言ってごめん。」

そう言った智は、いつものように優しく笑ってた。


土砂降りの雨が窓を叩き付ける。

ふと震えだした携帯には智の名前…

「もしもし?」

『あ、俺だけど…』

「うん。久しぶり。どうしたの?」

高鳴る胸の鼓動を押さえながら、明るい声を出す。

『いや、あのさ、最近連絡全然くれないしさ、元気かなーって…』

「そっか、うん、元気よ。智も元気そう。ドラマ見てさ、号泣しちゃった。」

『…見て、くれたんだ。…なんも言ってくんないからさ、見てくれてないのかと思った。』

「忙しそうだったから、智。コンサートもあるんでしょ?ちゃんとご飯食べて体調崩さないようにね?」

『ふふっ。あんがと。………雷、大丈夫?』

「うん、今のところなんとかね。」

『じゃあ、ヘッドフォンしてさ、音ガンガンにして熱唱ね?』

「夜更けに迷惑よ。」

雷嫌いの私に、智が考えた雷対策。
雷が鳴るたびに、電話やメールで送ってくれた。

そして、たわいもない話をして「じゃあね。」と携帯を切る。

「ちゃんと諦めなきゃ、苦しいだけかな…。」

独り言を呟き、最後の賭け…というふうに当選したコンサートチケットを見る。

あの広い会場で
何万人いる会場で
決していい席ではない場所で
万が一、智が私に気づいたら、片想いを続けよう。

気づかなかったら…
もう、電話もしない。電話もとらない。
キッパリ、終わりにしよう。

ね、智
あなたは気付いてくれますか?

.

『え?俺のこと好きなの?』
〜「確かに恋だった」サマより〜
.

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