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□『片想いの行方』
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嵐の人気を実際に目の当たりにしたのは初めてだった。

少しとまどいながら、チケットの席番を確認する。
スタンドの少し上の方。
これじゃあ、きっと、気付かないよね。

あの雨の日から智とメールをしたのは3回。
智から2回と、私から1回。
他愛もない内容で、もちろん、今日この場所に居ることは言えなかった。

諦めたいのか、そうじゃないのか
心は揺れたまま…

夕暮れになるにつれ、空いていた席も埋まり始める。

そして、花火と風船が空に舞う中、
歓声の中に姿を見せた5人。

びっくりするくらいステージの智は遠かったけど、
モニターに映る姿は
嵐の『大野智』だった。

うちわの一つ一つに手を振り笑顔を向ける智。
ステージが移動し、スタンドの上の方にも手を振る。

気付いてくれる…とか
気付かない…とか

そういう小さな事じゃなくて
歌を聞いて、ダンスを見て
キラキラした世界を見て
『大野智』は、好きになってはいけない人…
そう思った。

「バイバイ」

歓声に紛れて、前を通過する智に手を振る。

驚いた顔をしたように見えたのは、
きっと、私の錯覚。

今なら、泣かずにいられる…。

逃げるように会場から出て、スマホを取り出す。

呼び出した『智』のアドレス
消去のボタンにそっと触れた。

もう、電話もメールもしない。取らない。

きっと智は、私を探したりしない。
そういうこと、しない人だから。

きっぱり、諦めよう。


『俺のこと好きなの?』


今なら誤魔化さず、ちゃんと答えられる。


『今日まで、大好きだったよ』


少し冷たい風が、私の横を通りすぎた。


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