本棚U
□『キミにキス』
1ページ/1ページ
『ホントごめん。一人で大丈夫?』
「あのなぁ。子供じゃないんだしっ。まったく。」
『くすっ。子供より何も出来そうにないんだけど。』
反論する言葉もないまま、出番の少なかった鍵を取り出し部屋のドアを開ける。
急な残業で遅くなるらしく、めずらしく俺が待ち惚け。
とりあえず窓を開け、何か飲み物でも貰おうかな…
「ん?」
これ、飲んでいいんだっけ?グラスどこだっけ?
♪〜♪〜
『あ、翔、言い忘れてたけど、冷蔵庫の飲み物飲んでいいからね。グラスはわかる?あと、お腹すいたら冷凍庫に何かあると思うから。』
「あーぁ、やっぱり子供以下だな。」
『くすっ。頑張って早く帰るから。』
「へいへい。お利口にして待ってます。」
すべてお見通しな電話に苦笑しながら、アイスティーをグラスに注ぐ。
さて、何して待とうかな。
ふと見ると、ローテーブルの上には女性ファション誌。
「可愛いモデルが着るから何でも素敵に見えるのよ。」
なんていつもクールに言ってるのにめずらしい…そう思いながら手に取ると、折り目のついたページがあるのに気が付く。
ページを捲ると…
「あっ……。」
やっぱり、女の子なんだなぁ。このページを読んでいるキミを思い、クスリと笑みが漏れる。
早く…帰って来ればいいのに。
しばらくして、
「ただいまー。ごめんごめん〜。」
ガチャリとドアが開き、パタパタとスリッパの音が聞こえた。
「やっと帰れたぁ。翔、大丈夫だった?」
「ったく、どんたけ子供扱いだよ。ちゃんとお利口に待ってたよ。」
笑顔のキミをふわりと抱き締め
そっとキスをする。
「…どうした…の?」
驚くキミに、テーブルの上の雑誌を指差す。
「っ!…もしかして…見ちゃった?」
「はい、見ちゃった。じっくり。」
「あっ、あれはね、あれはそのっ…。」
俺の腕を解き、あぁでもない、こうでもないと言い訳をはじめる。
「あんなの読まなくっても、いつだって俺はそう思ってるんだけど?」
キミの華奢な腕を捕まえ、もう一度キスをした。
テーブルに広げられた雑誌のページは…
《秋色モテメイク決定版☆カレも夢中!!キスしたくなる唇!》
そんな事しなくたって…
俺はいつもキスしたい。
.