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□『あの時ふたりは』
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「ブサイク……。」
「ほっとけ。」
「朝からブサイクなんですけど。」
「うっせーなぁ、仕事昼からなんだからいいだろーよ。」
’’国民的アイドル’’とはかけ離れた姿で
リビングに現れた翔ちゃん。
「ねー、朝メシなに?」
「…………朝ごはん食べるの?」
「食べるの。」
「ってかさぁ、………いつ帰るの?」
コーヒーを翔ちゃんの前に置く。
「迷惑?」
「そうじゃないけど。」
「ちょっと現実逃避してんの。何かさ、全部に疲れたのかな。お前とバカな話してさ、俺の中に俺がいるか確かめてんの。」
ちょっと目を伏せ、自嘲気味に笑うのを見てると、心の奥がぎゅっとなる。
「……口が悪くて、神経質とズボラが共存してて、仲良い人には自己中な翔ちゃんはさ、まだちゃんと存在した?」
「お前の中の俺はどんなだよ。」
「ふふっ。」
’’彼女にはそんな姿見せないの?’’
なんて言葉、言えるはずもなくて…
飲み込んできた言葉が
どんどん増えて
胸が張り裂けそうになる。
「………私の知ってる翔ちゃんはさ、いつまで存在してるんだろうね。」
「え?」
「なんでもない。朝ごはん食べたら帰ってね。」
「あ、うん。何、マジで迷惑だった?」
「ううん。……違うよ。うん、違う。違うから…。」
「わかったよ。…どしたよ、急に。」
ポロリと零れた気持ちが
言葉になる……
「翔ちゃんはさ、もう嵐の櫻井翔だけになっちゃっうの?もう私の知ってる翔ちゃんはさ……翔ちゃんは……別の世界に……。」
あふれ出した言葉たちを止めるように
ぎゅっと抱きしめられる。
「そんなこと……言うなよ。」
「っ……。」
その腕の中から逃げようと胸を押してみたけど、トクトクと翔ちゃんの心臓の音と温もりが、私の両手に伝わる。
「そんなこと、言うなって…。」
「………どこまで…どこまで時間がもどったら……。」
’’友達’’を選んでしまったあの時から
あの瞬間から
私と翔ちゃんは
別の世界を進み始めたのかもしれない。
時間は、もう戻らない…
あなたに、触れていたかった……。
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