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□『氷恋』
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『結局さ、アナタが1番信用できるんだから。』

そう言って
私の手のひらに乗せた小さな鍵。

何かよくわからない黄色いゲームのキャラクターが付いていて

「………もうちょっとマシなキーホルダーなかったの?」

「黄色だからいいでしょ?」

「………ダサ宮。」

「なんとでも言いなさい。」

って二人で笑って………


もう、忘れちゃったかな。

なんで、
カズの熱愛報道を
小さな冷たい文字で
………見なきゃならないのかな。

「鍵、返すからさ、いつ行けばいい?」

「あー……どうしよう。しばらく持っててよ。」

いつもの呑気な優しい声が
スマホから響く。

「ヤダ。」

「…………なんで怒ってんの?」

怒ってなんかないんだよ。
怒ってなんて………

「……………もういい。ポスト、入れとくから。」

「……あ―………あのさ、」

「『ごめん』とか言ったら、今すぐ死んでやるから。」

「……ふふっ。怖いコト言うねぇ。」

呆れたように笑った柔らかい声に
胸が締め付けられる。

「……切るね。」

「うん。………ってかさ、これが最後なわけ?」

「カズのことをさ、1番わかってて、1番知ってて…1番…信用してもらってるって…そう思ってた……。」

「俺だってそう思ってた。」

「だったらっ」

そう言いかけて慌てて電源を切る。

『だったら』なんだったのか
なんて言うつもりだったのか……

テーブルに置いていたグラスに
スマホを沈めた。

カランと氷が音をたて
注いでいたアイスティーが
溢れ出す。

もう、カズには届かない。

私が

エラバレナカッタダケ…


.

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