本棚V
□『君の帰る場所』
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「………ね、泥棒でも入ったの?」
「まさか。」
「家宅捜索でもされた?」
「まさか。」
「………。なんなのよ。何でこんなに散らかってんのよ。意味がわからない。国民的アイドルがこんなとこ住んでるとかさ、マジありえないから。そりゃ、洗濯物乾かないし、お風呂場が臭いはずよ。」
「……怒ってたりする?」
ちょっと眉をハの字にして、
くりっとした目で翔は私の顔を覗き込む。
「カオス過ぎ、これは。」
「うん、わかってんだよ。俺も。だからさ、このままハワイに1週間も行ってたらマジでヤバいじゃん。」
「…で、いない間に掃除しとけと?」
「しとけ…は言ってない。しといてくれたら助かるなぁ…と。ほら、お前の仕事場も近いし…ね?」
「ね?じゃないわよっ。バカ翔。」
「…あはははっ。バカ翔って、初めて言われたぁ。」
なぜか翔は嬉しそうに大笑いしている。
「もぅ、何で喜んでるのよ。」
脱ぎっぱなしのジャケットを端によせ、呆れてソファーに座る。
「お前だけだよ。俺にバカバカ言って、プリプリ文句言ってくれるのは。」
ふふっと笑いながら、翔は私の横に座った。
「ハワイ…さ、ゆっくりできそうなの?」
「どうかな。収録とか取材とかいっぱい入ってたからね。」
「…ゆっくりできる時間、あればいいね。」
「ふふっ。…優しいね、お前はさ。」
翔の指先が、すっと私の頬に触れる。
唇が重なり、甘い声が漏れた瞬間…
「やっぱり、ダメ!」
思わず翔の体を押し退けた。
「はぁ??」
「こんなきったない部屋じゃ、雰囲気台無し。」
「………あはははは。ったく。そうきたかー。じゃあさ、続きはハワイから帰ってきてからか。」
触れるだけの小さなキス。
ちゃんと掃除して、
お風呂場もピカピカにしとくからね。
お土産、忘れないでよ。
「ね、ちゃんと…ここに帰ってきてね」
そう言葉にしてしまった私を、
翔はそっと抱き締める。
「俺が帰る場所はさ、ここだから」
耳元を擽る甘くて優しい声。
私はここで
あなたを待ってる…。
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