本棚V

□『君の帰る場所』
1ページ/1ページ


「………ね、泥棒でも入ったの?」

「まさか。」

「家宅捜索でもされた?」

「まさか。」

「………。なんなのよ。何でこんなに散らかってんのよ。意味がわからない。国民的アイドルがこんなとこ住んでるとかさ、マジありえないから。そりゃ、洗濯物乾かないし、お風呂場が臭いはずよ。」

「……怒ってたりする?」

ちょっと眉をハの字にして、
くりっとした目で翔は私の顔を覗き込む。

「カオス過ぎ、これは。」

「うん、わかってんだよ。俺も。だからさ、このままハワイに1週間も行ってたらマジでヤバいじゃん。」

「…で、いない間に掃除しとけと?」

「しとけ…は言ってない。しといてくれたら助かるなぁ…と。ほら、お前の仕事場も近いし…ね?」

「ね?じゃないわよっ。バカ翔。」

「…あはははっ。バカ翔って、初めて言われたぁ。」

なぜか翔は嬉しそうに大笑いしている。

「もぅ、何で喜んでるのよ。」

脱ぎっぱなしのジャケットを端によせ、呆れてソファーに座る。

「お前だけだよ。俺にバカバカ言って、プリプリ文句言ってくれるのは。」

ふふっと笑いながら、翔は私の横に座った。

「ハワイ…さ、ゆっくりできそうなの?」

「どうかな。収録とか取材とかいっぱい入ってたからね。」

「…ゆっくりできる時間、あればいいね。」

「ふふっ。…優しいね、お前はさ。」

翔の指先が、すっと私の頬に触れる。

唇が重なり、甘い声が漏れた瞬間…

「やっぱり、ダメ!」

思わず翔の体を押し退けた。

「はぁ??」

「こんなきったない部屋じゃ、雰囲気台無し。」

「………あはははは。ったく。そうきたかー。じゃあさ、続きはハワイから帰ってきてからか。」

触れるだけの小さなキス。

ちゃんと掃除して、
お風呂場もピカピカにしとくからね。

お土産、忘れないでよ。

「ね、ちゃんと…ここに帰ってきてね」

そう言葉にしてしまった私を、
翔はそっと抱き締める。

「俺が帰る場所はさ、ここだから」

耳元を擽る甘くて優しい声。

私はここで

あなたを待ってる…。

.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ