本棚V
□『6月の恋』
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初夏の風が髪を揺らす。
「翔さんの恋人には、なれませんでした…。」
私の言葉に、翔さんは何も答えず、
片方の眉だけをピクリと上げた。
「本当に…ごめんなさい…。」
それしか言えず、頭を下げる。
「…顔、上げて…?」
穏やかな声にそっと顔を上げると
目の前の翔さんは、優しい眼差しで私を見ている。
「ふふっ。わかってる。」
「え?」
「わかってっから。…なんか無理してるって。」
「翔さん…。」
「俺に、ずっと敬語のままだしね。」
くすりと微笑んだ翔さんは、
恋人の顔をしていて…。
思わず目を反らしてしまう。
「……好きっていうのが強すぎて…翔さんの全部に、緊張してしまうんです。一緒に居ても、心から安らげなくて…。」
「俺は、別れるつもりないから。」
翔さんは、キッパリとそう言う。
「でも…。」
「緊張するなら、会わなくていい。電話もしなくていい。メールだけでもいい。…だからさ…俺から…離れないで欲しい。」
「そ、そんなこと…。」
「ゆっくりでいいから。ゆっくり、
俺と恋をしてくれませんか?」
そっと差し出された手は大きくて…。
私にも、ゆっくり恋ができるかな…。
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