本棚V
□『晴れ時々…猫』
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「それ何?」
智の不機嫌そうな声がする。
「猫。」
「…おいらだって猫ぐらい見たらわかるよ。そうじゃなくて。」
「友達にもらったの。ペット可のマンションだし、一人暮らしにも飽きてきたし。」
ソファーの上で寝ている猫の頭をそっと撫でる。
「…。」
「え?智、猫嫌いだった?」
「違うけどぉ。」
さらに不機嫌そうに口を尖らす智。
「可愛いよ?」
「…。」
とうとう無視して、ゴロンと横になってしまった。
「変な智。」
ちょっとムッとして、コーヒーを入れるためにキッチンへ立つ。
「何なのよ、智ったら。…久し振りに会えたのにっ。…なんかムカつく。」
文句の一つでも言ってやろうと思い、リビングを覗くと…。
「おい、猫。」
智が、ソファーで寝ている猫の耳を人差し指で軽く突いている。
「聞いてっか?…そこさぁ、おいらの特等席なんだけど?」
もちろん猫は目を瞑ったまま。
「…それに、一人暮らしが飽きたからって、何でお前なんだよぉ。…飽きたならさぁ、おいらと暮らせばいいのに。」
智の言葉に、心臓が止まるかと…。
もしかして…妬いてる…?
そう思った瞬間、カタッと物音を立ててしまった。
その音で智はパッと猫から離れ、
私を見る。
「…智、今…何て、言ったの?」
「別にぃ。」
顔を少し赤くし、智は私に背を向ける。
「くすっ。」
「笑うなよぉ。」
「ふふっ。言い忘れてたけど、その子、メスだから。」
智の背中に声を掛けた。
「そんなのどっちでもいいし。」
ヤキモチ妬きな智の姿に、
嬉しくてニヤケてしまう。
不機嫌の理由は、ただのヤキモチ。
「ね、智。一人と1匹暮らしに飽きたら、智のとこに転がり込んでもいい?」
その時までに、イタズラしないように
ちゃんと躾しておくからね。
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