本棚V

□『キミに恋して』
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コトンと包丁をまな板に置く。

「ねぇ、ふざけてる?」

潤の冷たい声…。

「え?」

「俺、その鰺、三枚におろしてって言ったよね?」

「うん。だから、頭と胴体と尻尾?」

はぁ。と呆れるような溜息。

「…お前さぁ、今までよく生きてこれたね…。」

「あははは…。」

「あはははじゃねーし。まったく。」

「はい、すみません。」

幼なじみの潤は、いつの日からか料理が趣味みたいになっていて…。

いつも食べるだけじゃ悪いかなって思い、
「手伝うよ。」
って言ってしまった事を今頃後悔。

「それよりさ、お前そんな不器用だったっけ?」

「…言わないでよ。このままじゃ、お嫁に行けないわよね。」

「だね。」

「うわっ、はっきり言うんだ。」

「行き遅れ決定だな。」

「…どうしよ。ホントに潤の言う通りになったら…。」

「あはははは。ま、そんときはさ、俺がもらってやるよ。」

私がバラバラにしてしまった鰺をさばき直しながら、潤はサラリと言ってのける。

「えっ?」

「だから俺がさ、もらってやるって。」

「……潤…くすっ。うん。」

「あっ、でもさ、これから料理は特訓だからな。」

「ふふっ。はーい。」

昔も今も
潤はやっぱりカッコいい。

明日にでも、お洒落なエプロンを買いに行こうかな。

そんな事を思いながら、
手際よく動く潤の手を見ていた。


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