本棚V
□『幸せのカタチ』
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「もーっ。これが国民的アイドルの住む部屋なの?」
「実際住んでます。」
「ちゃんとご飯食べてるの?」
「出前王だから。」
「……もうサンダルはナシだからっ。」
「え?そう?」
「今、何月だと思ってんのよ!ほんっとにカズはさぁ、毎年毎年っ。」
「ふふっ。」
思わず笑ってしまう。
「何がおかしいのよっ。」
膨れっ面のあなた。
「いやさぁ。まだ、俺のこと叱ってくれるんだなぁって思って。」
「え?」
サンダルを片付けながら、
あなたは不思議そうな顔をする。
ずっと昔から
あなたは俺の母さんみたいで
姉ちゃんみたいで
彼女みたいで…
「あなたさ、いくつになったんだっけ?」
「は?どうしたの?忙しすぎて頭沸いちゃった?いくつも何も、同級生なんだからさ、同じ年にきまってるでしょ。」
「だよね。」
……もう、解放してあげなきゃ……
俺に関わらなかったら
あなたは今ごろ
幸せな家庭を築いて
『サンダルは片付けるよ〜』
なんてセリフは俺じゃない誰かに
言ってるはずなんだから…
「カズ?」
「え?あ、何?」
「聞いてなかったの?これ、このシャツは捨てちゃうよ?色褪せちゃってるし。」
「……捨てちゃっていいよ。シャツも俺も。あなただってさ、幸せになりたいでしょ?」
感情がこもらないように
淡々と言葉にする。
「…………なーに言い出すのかと思った。私の幸せをさ、カズが勝手に決めないでよ。」
「…でもさ…。」
「私、カズのこと叱ってるの楽しいから。」
ちょっと楽しそうに言ったあなたは
またクローゼットを整理し始める。
「……もしかして……。」
「ふふっ。カズの考えてることくらいお見通しよ。残念だけど、ずーっと叱ってあげるからね。」
「…あ、そう?ってかさ、なんか俺、ドMみたいになってんだけど。」
俺の言葉に、ちょっと笑って
あなたはポツンと……
「♪〜他の人を愛しても 他の人でしかありません〜♪」
そう、口ずさんだ。
「……わかった。じゃあさ、捨てんのは、そのシャツだけにしといて。」
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