本棚V

□『冬風』
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「あれ?もう帰っちゃう?」

「あ、はい。すみません。なんか盛り上がってるから、コッソリ帰りますね。」

「潤は?」

「後で連絡しときますから。ほら、なんか楽しそうだし。」

「そう?」

「はい。お邪魔しました。」

「ワインありがとね。また潤と遊びにおいでね。」

「ありがとうございます。」

玄関の扉を閉めた瞬間
大きな溜め息がこぼれた。

もう何度目かのホームパーティー。
テレビで見たことある俳優さんや女優さん、モデルさんがいっぱいで…。
"松本潤のツレ"って言うだけの一般人の私には、本当に気まずく辛い時間。

きっと、潤はよかれと思って私を連れて行ってくれている。

でも…
やっぱり、私は一般人…。

『俺は何にも変わってない』

潤はそう言うけど
もう、潤は遠いよ…。

「黙って帰るとかありえないだろ?」

「だって、盛り上がってたから。」

「そうだけどさぁ。」

「ね、潤、もう私を誘わなくていいから。」

「は?」

「…もうさ、場違いな思いはしたくないの。」

「場違いってなんだよ?」

潤の口調が強くなる。

「テレビの向こうとこっちは違うのよ。」

「はぁ?何言ってんの?」

きっと…

「潤にはわからないよ。潤は…もう違うんだよ。」

「だから何で!?」

「じゃあさ、変装なんてせずに、日曜日に駅前で待ち合わせて食事に行ける?一緒にクリスマスプレゼント選びに行ける?二人でスーパーに行ける?……業界の話を、ずっとニコニコ聞いてる私の気持ちがわかる?……私の虚しい気持ちが…潤には……わからないよ…。」

心の奥深くに閉まっていた気持ちが
爆発してしまった。

ポロポロと零れる涙。

潤は…酷くツラそうな顔をしている。

「…気持ちがすれ違うって、こういうことなんだな…。」

「…ごめんなさい。帰ります。」

逃げるように潤の部屋を後にする。
潤は…追いかけてはこなかった。

これで、終わり……

正直な気持ちなんて
伝えない方がよかったのかな。

ただニコニコしておけば
恋は終わらなかったのかな。

でも
気持ちがコトバになって
コトバが声になって
私の気持ちは止まらなかった…

潤は
いつも優しかったよ。

それだけは
伝えればよかったな。

イルミネーションの輝く街で
そんなことを思う。

真冬の風に吹かれながら…。


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