本棚V
□『三日月』
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「え?お休みなの?」
『そー。だからさぁ、来ない?ここ最近全然会えなかったしぃ。』
電話の向こうから
いつものように
のんびりした智の声が聞こえる。
「あー………ごめん。明日ね、仕事早いのよ。」
『えー。じゃあさぁ、こっちから仕事行けばいいしぃ。』
「んー……でもごめん!今日は無理だよ。」
『………この前もさ、来なかったよね。………オイラのこと……嫌いになった?』
その声に
胸の奥が締め付けられる。
「そうじゃないのよ。嫌いになったんじゃないの。」
それは、ホントの気持ち。
『………じゃあさ…なんで?』
「智のこと、嫌いになったんじゃないの。………ただ………」
言葉が続かない…
『ただ?』
窓の外に綺麗な三日月が見えた。
「ただ………寂しい時に…寂しいって言いたいだけなの…。嬉しい事があった時に…嬉しいって、言いたいだけなの…」
それも、ホントの気持ち。
『………オイラには、言えないの?』
「…………智は…すぐに、電話取ってくれる?………会いに…来てくれる?」
絶対に言ってはいけないヒトコト
私にだって…わかってる…
『………。』
「ごっ、ごめんなさい。智は悪くないからっ。」
智の言葉を待たずに電話を切る。
好きすぎて 想いすぎて
会えない時間が長すぎて
心が… 気持ちが… 欠けてきて…
"智には迷惑かけちゃいけない"
そう思うこと自体が
間違いだったのかもしれない。
でも、もう
何もかもが遅すぎた…
欠けた心を埋めたのは
智じゃなかった…
ただ
それだけ…
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