本棚V
□『6月のトマト』
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「うわっ。6月だ…。」
「まぁねぇ、5月が終わったら6月が来るよね、普通は。」
「わかってるわよ、そのくらい。」
「じゃ、何で"うわっ"なわけ?」
ビールのおつまみに
肉じゃがをちびちび食べながら
カズが呆れた声で聞く。
「……ねぇ、もう少し美味しそうに食べられない?」
「え?旨いと思って食ってるけど。」
「そう?なんかテレビの食べ方と全然違うんだもん。」
「そりゃ、あっちはお仕事だからね。ギャラでもくれたらさ、いくらでも美味しそうに食べるよ?」
「………聞いた私がバカだった。」
「ふふっ。」
満足そうに笑って、また箸を進める。
「でも、みんな美味しそうに食べるよねぇ。あれってさ、やっぱり全部美味しいの?」
「TVショーだからね。それなりに美味しいお店しか出ないでしょ。」
「だよね。」
「あ……」
「え?イマイチなのもあるの?」
思わず向かいに座るカズを見つめる。
「そうじゃなくて、何食べても旨いけどさ、ずっと食ってられるのはコッチだなーって。味付けかな?なんだろね、好きなのはコッチ。」
そう言って、カズは肉じゃがをパクりと口に入れる。
「っ………ありがと……」
「あら、照れちゃった?」
「あーっ、もぅ、ホントにヤなヤツ」
赤くなってるだろう耳を
とっさに押さえる。
「ふははははっ。ね、6月だからね。和也くんの誕生日あるからヨロシク」
「それが"うわっ"なのっ。物欲のない和也くんのプレゼント、毎回大変なんだからね。」
「じゃあさ、プレゼントはアナタでいいよ。で、来年からはさ、アナタが笑ってこうやって向かいで喋っててくれるだけでいいから。ね、どう?」
ニッコリ笑うカズが眩しくて…
「……うん。」
あーぁ、やだやだ。
きっと耳も頬も真っ赤な私。
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