本棚V
□『最後の言葉』
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「部屋がキレイって爽快だな。」
「…何日かかったと思ってんのよ。それに冬物出しといてなんて。」
「だってさぁ、急に寒くなったじゃん。無理だよ、あの状態で冬物探すのなんて。」
「…………あんたの部屋でしょ。」
片付いた部屋に満足するように
ぐるぐると歩きまわる翔ちゃん。
「でもマジでありがとな。心底感謝してるから。」
「で、ちゃんとこの状態を保ちなさいよ?ツアー始まるけど、準備段階で汚しちゃダメよ?」
「え?来てくれるんでしょ?」
「はぁ?……言ったよね?私、11月からしばらくこっちにいないよって。」
まんまるの目をさらに丸くして
翔ちゃんが固まっている…。
「いや、そんなの困るから。」
「え?言ったでしょ?」
「聞いたかもだけど忘れた。ってか、マジ無理。俺どうしたらいいよ?」
「どうしたらいいよ?って…。大の大人が何言ってんのよ。」
「そうだけどさぁ。」
困ってる翔ちゃんを見て
ちょっと笑ってしまう。
’’翔ちゃんが頼りにしてくれること’’
それだけが……私のすべてだった。
「ふふっ。そんな顔しないでよ。翔ちゃん離れできないじゃん。」
「離れていかなくてもいいじゃん。」
「………じゃあさ、私と付き合ってくれる?結婚してくれる?……翔ちゃん離れしなきゃさ、恋人も出来ないじゃない。」
笑って言ったはずなのに
笑った口元が…震えて……
小さな衝撃ひとつで
きっと涙が零れてしまう……
「……。」
「冗談よ。………じゃ、ちゃんと片付けてね。」
涙が零れてしまう前に
翔ちゃんが何か言う前に
部屋を後にする。
「っっ!…………ごめんな。」
玄関のドアを閉めようとした瞬間
私の耳に届いた言葉……
『ごめんな』
最後の言葉のその声は
柔らかで優しくて
哀しくて苦しい……
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