本棚T

□『きみのとなり』
1ページ/1ページ

「ねぇ、ちょっとだけなんだけどさ。」

「…わかったわ。じゃあ、完成したら一番に見せてよ?」

「もちろん。」

そう言って智が部屋に入ってからもうすぐ3時間。

ほんとに久々の1日一緒に過ごせるお休み。
でも、完成させておきたい作品があるからって…。

借りていたDVDも見終えてしまい、紅茶でも入れようとキッチンに立つ。

「うわっ、何にもない…。」

思わず声に出てしまうほど紅茶の缶も冷蔵庫も空っぽ。

「智、ちょっとコンビニ行ってくるね。」

ドアの向こうの智に声をかける。

「うん。気を付けてね。」

「ありがと、行ってきます。」

とりあえず私が来てること忘れてはないみたいだし、うっかり眠ってもないみたい。
少しほっとしコンビニへ急ぐ。


新作のお菓子や飲み物を入れた袋を下げてドアを開けると…

「わっ、びっくりした。」

今にも靴を履いて飛び出してきそうな智の姿。

「どこ行ってたの!?」

「どこってコンビニよ。声掛けたじゃない」

「……そうだっけ?」

「うん。…気を付けてねって言ってくれたでしょ?」

「言ったっけ。」

「まさかの無意識?」

集中してる時の智に何言ってもムダなことはわかっていたけど、さすがに無意識の返事って…。

「いなく、なったのかと思った。」

リビングに戻りながら、智がポツリと呟く。

「え?」

聞き返す私に振り向き、ふわりと抱き締める。

「いなくなんないでよね。…好きだからさ。」

耳元で聞こえる優しい声。

「うん。」

大丈夫だよ。私はずっと智のとなりにいるからね。

そんな言葉のかわりに、
私もそっと抱き締め返す…。


.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ