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□『キスしたこと?』
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「本当に大丈夫?」

「大丈夫だって。」

「そのテンションが不安なんだけど…。」

「見せちゃうよ?俺のA型の部分。」

嬉しそうな雅紀の笑顔に負け、覚悟を決めて用意された椅子に座る。

コトの発端は…

「前髪、切りに行こうかな。」

そんな私の独り言。

「え?前髪だけ?そんなの俺が切ってあげる。」

「……お断りします。」

「えー、何でだよー。大丈夫だよ、前髪だけでしょ?」

「いやいやいや、前髪だから大事なのよ。」

「いいじゃん、大事ならなおさら俺がね。」

「やだ。」

なんて押し問答しながらも、雅紀は楽しそうに椅子にハサミに…と用意してしまった。

で、結局私は椅子に座っている。


「じゃ、目つむって?」

「ねぇ、お願いだから変にしないでよ。」

「わかってるって。俺を信じなさーい。」

だから、そのテンションが心配なんだよ…
って言葉は飲み込み目を閉じる。

「じゃ、切るよ?」

雅紀の指が、瞼の辺りをかすめる。
そして、少しずつ前髪が切られる。

「ね、大丈夫?」

「俺、天才かもしれない。」

目を開けると、満面の笑みの雅紀。
差し出された鏡を見ると…

「……すごい…雅紀すごいね。うん、いい感じだよ。」

「でしょー。ね、もう一回、目つむって?」

「手直し?」

「まぁ、そんなとこ。」

「お願いします。」

素直に目を閉じる。

すると、ふっと
雅紀の手が頬にそえられ
唇が重なる…

「!?」

驚いて目を開けると、

「なんかさぁ、我慢できなくなっちゃった。」

「………くすっ。もう、バカ。」

あの雅紀の笑顔を見ると、何でも許せると思ってしまう。

切ったばかりの前髪をそっと手で直す。

「雅紀、ありがとね。」

「え?髪切ったこと?それともキスしたこと?」

「もう、バカ。」


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