本棚T
□『零れた言葉』
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ちゃんと言えたら
何か変わっていたのかな…
「電話してよ。」
「今度のお休みはいつ?」
「誕生日は一緒にいてね。」
「今日は泊まってもいい?」
全部、言えなかった言葉たち。
「俺はさ、彼氏じゃなかったわけ?そういう我慢って、どうかと思う。」
静かな部屋に、翔の言葉が響く。
「……私、間違ってたのね。」
そう言うのが、精一杯だった。
小さな鍵を、テーブルに置く。
「もっとさ、甘えたり、ワガママ言ったり、何でも言ってもくれてよかったんだよ。」
翔の声を、背中で聞く。
振り返ることもできず、少し重いドアを開け、 部屋を後にした。
「言えるわけ、ないじゃない。『面倒な女』には、なれないよ…」
涙と一緒に零れた言葉。
困らせたくなかっただけ。
嫌われたくなかっただけ。
翔の
そばにいたかっただけ…。
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