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□『恋のはじまり』
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「……うわっ、怖っ。」

「怖って何だよ。」

「だって怖いじゃない。トランプがこっちからこっちに移動したら。」

「まぁ、それがマジックだからねぇ。」

トランプをくるニノの手を見つめる。

「ねぇ、どうなってるの?」

「…あなた、バカでしょ?誰が簡単にネタばらすかよ。」

「意地悪。」

「なんとでも言いなさい。」

「あーぁ、ニノが意地悪だから帰ろうかな。ご飯作らずに。」

「いやいや、何でそうなる。マジック見たがったのあなたでしょ。」

…そんなニノの話し方が、すごく好きだと思う。

「機嫌直して、メシお願いします。ね?」

…そんなニノの優しい声が、すごく好きだと思う。

だけど、私はニノの彼女ではない。
『女友達』なんてズルい立場で、ニノのそばにいるだけ。


「聞きたいことあるんだけど。」

お箸を持つ手を止め、ニノが私に視線を向ける。

「…何?」

「俺の名前、知ってる?」

「え?」

「いや、だからさ、俺の名前知ってんのかなって思ってさ。」

「二宮和也…でしょ?」

ニノが何を言いたいのか解らず、聞かれるままに名前を答える。

「あ、知ってるんだ。」

「知ってるわよ。何年…何年友達やってると思ってるのよ。」

『友達』その言葉を飲み込みそうになってしまった。

「友達…なんだ。」

そう言った声と、表情と、私を見る目で、
ニノが何を言い出そうとしているかわかってしまった。

…そのくらい…
私はニノを見てきた

小さくため息をつき、私も箸を置く。

「ホントに、意地悪ね。……本当の気持ちを言えないのは、言ったら…ニノは困るでしょ?言わないのは、言ったら…友達だって言い訳できなくなるから。……ニノって呼ぶのは、彼女ができた時に友達でしょ?って笑って諦めるため。」

…言ってしまった。

「どう?これで満足?」

私の言葉に、ニノはふっと表情を緩める。

「満足です。…俺も同じだった。だからさ、言っとく。俺、あなたのこと好きだから。」

「っ…」

驚いて、言葉もでなくて

「友達、終わりね。ニノって呼ぶの飽きたでしょ?」

目の前のニノが、私に微笑む。

「……考えた事もなかった…ニノ以外の呼び方はなんて…。」

「じゃあ、和也って呼んでみ?」

そのイタズラっぽい、
優しい顔が好きだと心から思う。

「…やめとく。」

「はぁ?何だよそれ。」

「なんか、今呼ぶのもったいない気がするんだもん。」

「意味わかんねー。」

呆れ顔のニノを見て、クスリと笑う。

二人の
新しい恋が始まる…。

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