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□『赤色の傘』
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「買おうかな、赤色の傘。」

「……何で?とか聞かないから。」

「うん。」

「っていうかさ、リフレインだけ何回リピートしてるわけ?」

「うん。」

「聞いてる?俺の話。」

「うん。」

「マジで聞いてる?」

「うん。」

リピートボタンをもう一度押す。

「…別れようよ。」

「うっ……。えっ!?」

翔の言葉に驚き、勢いよく振り向いた拍子に、ローテーブルに置いたカップが倒れ、床に転がる。

「いやいや、驚きすぎでしょ。ほら、台拭きどこだよ。コーヒー撒き散らしてるじゃん。」

「え?あぁ、うん、ごめん。」

手早く片付ける翔を見つめる。

「あーぁ、カップ割れちゃってるし。」

何事もなかったような翔。
『別れようよ』その言葉が頭から離れない私。

「急に振り向くなよ。びっくりするだろ。」

「………やだよ……」

目の奥が熱くなり、涙が零れそうになる。

「え?あぁ、さっきの?ウソウソ、冗談。あんまり派手にビックリされるからさ、すっかり忘れてた。」

「……聞きたくない…冗談でも。」

「あー、うん、ごめん。悪かった。」

ちょっと困ったように笑って、翔はふわりと私を抱き締める。

「なんかさ、意地悪してみたくなったってやつ。誰かさんがDVDばっかり観てるから。」

「…ごめんなさい。」

「ま、いいや。俺以外のメンバーのソロに夢中なんじゃなかったし。」

「ふふっ。」

「じゃ、新しいカップでも買いに行きますか。」

抱き締めていた腕はほどかれ、頭をポンッと叩かれる。

「……ホントに、もう聞きたくないからね。」

「俺だって言いたくないよ。」

「うん。」

リフレイン見てたのはね、
赤色の傘を持った翔がすごく格好いいから。

なんて言ったら、翔はどんな顔するかな。

やっぱり、買おうかな赤色の傘。

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