本棚T

□『海と空とキミと』
1ページ/1ページ


「あれ?車変えたの?」

「乗り換え割なんでしょ?」

「ありがとうございますっ。」

「くすっ。誰かさんの釣り道具がいっぱいなんだもん。これならたくさん荷物積めるからね。」

「いい色だよね。うん、似合ってる。」

「何か調子いいなぁ。」

「感謝してます。」

智は一礼をして助手席に乗り込む。

「釣り、行きたかったんじゃないの?」

「ん〜、また海に落ちたらヤバいって禁止令。」

「ふふっ。日焼け防止で夜釣りにしたのにね。」

「何かさぁ、俺がいっつも落ちてるみたいな感じになってんの。」

ちょっと不満そうにそう言うと、シートを少し倒し、智は あくびをひとつ。

「あ、ねぇ。」

「着いたら起こして…でしょ?」

「お願いします。」

釣りには行けなくても、ちょっと海までドライブに。

眠る体制に入った智をチラリと見ながら、
私は好きな音楽をかけ、アクセルを踏んだ。


「ね、智、着いたよ?」

海の見える公園の駐車場に車を停める。

「うぅぅ〜。」

意味不明の唸り声を出して、グッと智が背伸びをする。

「何よ今の声。」

「んぁ?」

「はぁ。もう、アイドル要素ゼロね。」

「へ?」

「…ううん、なんでもない。」

こんなに無防備な智も貴重かな?なんてちょっと思ってしまう。

「あ、ちょっと、星すごいよー。見てみなよ。」

先に車を降りた智が私を呼ぶ。

「うわー、すごいねー。」

並んで空を見上げる。

「あ、流れ星!」

「え!どこどこ?」

キョロキョロと流れ星を探す私を、ふいに智が抱きしめた。

「…智?」

「あ〜、久しぶり。……ちょっとさ、忙しかったんだよね。」

「そっか。…ふふっ。お疲れ様。」

「……もうちょっと、いい?」

「…うん。」

抱きしめる腕の力が少し強まる。

「…ね、智。」

「ん〜?」

「智が疲れた時はね、私がどこにでも連れて行ってあげるからね。」

「ふっ。うん、頼りにしてます。」

「だからね。」

抱きしめられていた腕を抜け出し、智を見つめる。

「だから?」

「だからね、…大事にしてよね。」

「うん…はい。」

海の香りがする夜空の下、
ふたりだけの甘いキス。


.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ