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□『ヤキモチ』
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「なーんかさ、機嫌悪くない?」

「そう?」

「イヤイヤ、絶対機嫌悪いでしょ。今の『そう?』って超怖い顔してたって。」

私の言葉を真似しながら、雅紀は助手席から私を覗き込む。

「危ないからこっち見ないでよ。」

頭をぐっと押し戻す。

「何でだよ〜。あ、もしかして迎えに来るの嫌だった?」

「そんなことないわよ。前からお願いされてたし、私、明日仕事お休みだし。」

「じゃあ〜、最後の1本だったビール、俺が飲んだから?」

「何それいつの話?そんなこと気が付かなかったけど。」

「え?気付いてなかったの?言うんじゃなかった〜。」

雅紀は必死で私の不機嫌の理由を考えている。

「で、今日はどちらにお泊まり?」

「あ、よければそちらに…。で、明日またスタジオまで送って頂けたら助かります。」

「わかりました。」

「やっぱ機嫌悪いんじゃん。超怖いんですけど。」

そんな雅紀にちょっと笑いそうになるのをグッと我慢する。

「え〜。俺、なんかやらかしたかなぁ。」

結局、マンションに着くまで1人ブツブツ。


「やっぱムリ!全然わかんない。ね、何で機嫌悪いの?」

置いてあるスウェットに着替え、雅紀はお茶を淹れている私の後ろに立つ。

「……機嫌なんて悪くないわ。」

「嘘だね、絶対に嘘。」

ムキになる雅紀は、やっぱりちょっと可愛くて…

「雅紀が優しいからよ。」

「へ?」

「雅紀が優しいからね、…ヤキモチってやつです。」

「え?なんかよくわかんないんだけど…」

「だから、さっき迎えに行った時にね、スタッフの…あのちょっと小柄な女の人に手貸してたでしょ?」

「あぁ、あれは、ちょっと酔っててふらついてたから。」

「わかってるよ。わかってるけどさ、ちょっと嫌だったの、雅紀が他の女の人に優しくしてるのが。」

何かそんなことを言ってる自分が恥ずかしくなり、思わず目をそらす。

「……ヤバい…。超嬉しいんだけど。」

「え?」

「だってさぁ、ヤキモチとか超可愛いよね。」

「もぅ、笑わないでよ。」

「大丈夫、俺にはキミしかいないから。」

満面の笑みの雅紀に、ギュッと抱きしめられる。

それだけで、ヤキモチ妬きの心は小さくなってしまう。
私って、単純なのかな。

それとも、雅紀の笑顔にはそんな力があるのかな。

抱き締められた腕の中で、そんなことを考えた…。


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