本棚T
□『ねぇ。』
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月明かりの下
君と並んで歩く。
偶然触れた指先に
君は小さく「すみませんっ。」
そう言ってパッと手を引っ込めた。
「あ、あの…二宮さん、私、一人で帰れますから。」
「俺も帰り道だし。それにさ、歩きたい気分だから。」
「そう…ですか。」
緩く巻いた君の髪が、ふわりと風に揺れる。
「…大野さん、優しい?」
「え?あ、はい。…すごく。」
「あの人さ、釣りの話ばっかりしてない?」
「くすっ。でも、知らないことばかりだから…すごく楽しいです。」
少し俯き、頬を染める君は
すごく大切で、尊敬する人の恋人。
それなのに
そうだけど
君の声に
君の仕草に
君のすべてに
惹かれてしまう。
どうしたら
いいのかな。
空に浮かぶ月を見上げる。
ねぇ、
どうしたら いい?
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