本棚T
□『ライバル』
1ページ/1ページ
「ね、ちょっとハサミ貸してよ。」
「え?ハサミ?」
「そ、ハサミ。ないとか言わないよな?」
「ハサミくらいありますから。」
ネイルを施したばかりの爪先にフッと息を吹き掛ける。
「あ、いいよ、自分で取るからさ、どのへんにある?」
「えーっと、あっちの2番目の引き出しかな?」
「あっちってどっちだよ。」
潤は呆れ顔でリビングから寝室へ移動。
「ここー?」
「んー、たぶんね。」
爪先が気になり、返事もちょっと適当に…。
急に潤の声が聞こえなくなった瞬間………
「あーっっっっ!!」
大変なことを思い出し、急いで寝室へ。
でも、時すでに遅し……。
「………何これ…」
固まっている潤から、ファイルを奪う。
「………見ちゃった?」
「……見ちゃった。っていうか、何、それ。」
「…。」
「それさ、俺じゃね?」
「………そうよ、ぜーーんぶ'松潤'。松本潤よ。潤が載ってる雑誌、多すぎるから毎月立ち読みして、一番好きな顔してるのを買うの。で、ファイリングしてるの。別にいいでしょ?私の趣味なんだから。何か文句ございます?」
恥ずかしさを隠すように、早口で説明する。
「………いいや、文句はないけど。……可愛いコトやってんなーって思ってさ。」
「どうせバカにしてるんでしょ?切り抜き集めるなんて子供みたいって。」
「バカにしてないよ。っていうか、何で怒ってんだよ。」
「お、怒ってなんかないわっ。」
ファイルを引き出しに戻していると、後ろからそっと抱き締められる。
「そのファイル、いつ見てんの?」
「………会えない日が続いた時は、ファイルや雑誌やDVDで、嵐の'松潤'みてるの。」
「ふーん。'松潤'に癒してもらうんだ。……なーんか複雑。」
ちょっと甘えたような、拗ねた声が耳元をくすぐる。
「'松潤'好きなんだもん。」
「ライバルだな、'松潤'は。……ま、'松潤'なんかに、譲らねーけど。」
くるりと振り向かされ、チュッと小さな音を立てキスをされる。
「……くすっ。ね、潤。」
「ん?」
「続けても、いい?私の趣味。」
「ふっ。いいよ。でもさ、オマエの一番は、俺だからな?」
私の一番好きな顔で、ふっと笑う潤。
「くすっ。うん。」
やっぱり、抱き締めてくれる潤が一番。
.