雲 隠
□『嫉妬』
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「怒ってるの?」
「…そういう訳じゃないけど。」
車から降りた私の手首を掴み、引っ張るように部屋に向かう。
「智?」
「…。」
ポケットから鍵を取りだし、ガチャリとドアを開けると、
「入って。」
「あ、うん、お邪魔します。」
半ば押し込まれるように玄関へ。
後ろ手に鍵を閉めた智は
ドンッ
私を壁に押し付け、唇を塞ぐ。
「っ!」
その体を押し戻そうにも全然動かず、
いつもの優しい智とは全く違う智がそこにいた。
「…っ…息…できないよ…」
そんな私の抵抗も虚しく、激しく噛み付くようなキスから始まり、されるがままに息を乱される。
「……痛い…よ…」
壁に押し付けられた手首がヒリヒリと痛む。
乱れた洋服に、いつもと違う智に、涙が零れた…。
「っ!ご、ごめん!大丈夫?」
ふと、我に返った智が、壁にもたれたまま座り込む私を抱き締める。
「ごめん、ホントにごめん。俺、なにやってんだろ。」
「………怒って…たの?」
いつもの優しい声に、私も落ち着いてきた。
「………そうじゃ、ないけど……。俺が来た時さ、ニノと、なに話してたの?」
「え?あ、あれは…二宮さんの誕生日がもうすぐだから…プレゼント、何が欲しいかなって…。智、悩んでたでしょ?」
私の説明に、智は小さく笑って、抱き締めていた腕をほどき、乱れた髪を優しく直してくれる。
「………ニノと楽しそうでさ…余裕なくなっちゃった…」
ポツリとそう言って、俯く智。
「………くすっ。初めてだね、ヤキモチやいてくれたの。」
「ホントに、ごめん。……俺のこと、嫌になった?」
「ううん。全然。……でも、ちょっと怖かった…。」
「だよね……。」
「……だから、次は…優しくしてね?」
「…ふっ。うん、わかった。」
そう言って、
いつものふわりとした優しい顔で
「大好きだから。」
って、甘く優しいキスをひとつ。
二人の夜は、これから……
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