本棚T
□『プリンとキミと』
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昼間でも薄暗い部屋に電気をつける。
「やっぱり暗いよねぇ。っていうか、また暗くなった?」
「暗くなってないわよ。それにね、私が引っ越してきた時は明るかったの!」
「まぁ、そんなに怒らないでよ。美味しいプリン持ってきたからさ。」
目の前にプリンの入った袋を差し出される。
「買ってきたんじゃなくって?」
「持ってきた?ん?いや、ほら、貰ってきた?そう、貰ってきたんだよ。差し入れでたくさんあったから。」
「くすっ。持ってきたって言ったらドロボウっぽいよ。貰ってきたなら、ありがたく頂きます。」
珍しく夕方まで時間があるからと、雅紀がうちにやってきていた。
「でもホントに、暗いでしょ?」
「そうだねぇ。そんなに気になるならさ、引っ越ししたら?」
「それも考えたんだけど、今の家賃でこれだけセキュリティがちゃんとしてる所ないもん。」
「そっかぁ、女の子の一人暮しは大変だ。」
近くに新しいマンションが建ち、方角的に私の部屋はリビングがお昼でも真っ暗に…。
「じゃあさ、上の階とか別の部屋は?」
「ダメダメ、満室なんだって。」
「あらら。俺、日当たりとかそんな気にしたことないなぁ。」
「あたりまえでしょ?"相葉ちゃん"が住むようなマンションはどこでも日当たり完璧よ。私なんかと次元が違うのよ。」
なんて、ちょっと嫌みを言ってみたけど…
「ん〜、ならさ、おしゃれなスタンド照明買ってテンションあげるっていうのは?」
と、満面の笑み。
…うん、雅紀に嫌みは通用しないよね。
「…もういいや。プリン食べようっと。」
「じゃあ、俺も〜。」
それにしても、やっぱりお昼に電気って本当に納得いかない。
「…プリンおいしい。」
「でしょでしょ?好きでしょ?甘さ控えめプリン。」
「くすっ。うん、好き好き。」
美味しいプリンと、ニコニコ笑顔の雅紀…
部屋が暗いのなんて、もうどうでもいいかな。
「あっ!」
「何?びっくりした。」
急に雅紀が声を上げる。
「ごめんごめん。あのさ、超いいこと思い付いたんだけどさ。」
「もういいよ。部屋が暗いのは我慢するわ。どうせ平日は仕事でいないんだし。」
「そんなこと言わないで聞いてよ。」
「うん。じゃあ何?」
「俺んちで暮らせば?」
「…………え?」
「だから、うちにおいでよ。うちならセキュリティ万全だし、日当たり良好だし、ね?そうしなよ。いや〜、今日の俺、超さえてるでしょ。」
「……それ、本気で言ってるの?」
「うん。本気。」
だから…天然って怖い…
返事に困る私を見て、
「嫌?」
なんて、ちょっと不安な顔。
「……プリン、食べてから考える。」
「そうだね、うん。でもいい考えでしょ?一緒に暮らしたらさ、いつでも会えるし、絶対楽しいよ〜。」
あれこれ楽しそうな雅紀には、
私のドキドキは伝わってないんだろうな。
そんなことを考えながら、プリンをすくう。
さっきよりも
ずいぶん甘い気がした…
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