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□『好きと言わせて』
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「どういう心境の変化?俺の誘いに乗るなんてさ。」
運転席の潤が私を見る。
「ふふっ。たまには潤の横もいいかなぁって?」
「疑問系なんだ。」
信号が青に代わり、車は動き出す。
「爪、珍しいじゃん、そんなになってるの。」
そう言われ、ネイルの少し剥がれた爪先に視線を落とす。
「細かいとこ見てるのね。塗り直さなきゃ。…ダメね、こういう女子力っていうの低下させちゃ。」
「そう?いいんじゃないの?たまには肩肘張らない姿っていうのも。」
「くすっ。格好いいわね、潤はいつも。」
「お前さ、絶対バカにしてるだろ。」
「してないしてない。」
久しぶりに、穏やかな時間が流れる。
「彼氏と、何かあった?」
「…まぁね、長いこと付き合ってると喧嘩くらいするでしょ。」
「俺、お前と喧嘩したことないけど?」
「友達だからね。」
潤の言葉をさらりとかわし、窓の外をみる。
「潤の彼女になる人って、どんな人かしら。」
「いきなりだなぁ。」
「潤を好きになる人はたくさんいても、潤が好きになる人はひとりなんでしょ?ならさ、すごいよね。すごい確率。宝くじにでも当たる感じかしら。」
「でもさ、俺が好きになった人が、俺の事好きになってくれるとは限らないから。」
「なんか切ないのね。」
「…お前が、そうじゃん。」
ドキリと跳ねた気持ちを落ち着かすように、小さく溜め息をつく。
「そういうこと、人が弱ってるときに言わないでよ。」
「……反則だった?」
「反則。……帰るわ。」
「何、怒った?」
「ううん。違うよ。…ただね…」
…今日は潤の言葉に揺れそうだから…
言葉を飲み込む。
「いつもの場所でいい?」
「うん。」
潤も、それ以上は聞かなかった。
「ありがと、また誘ってね。」
「誘いに乗ってくれるならね。」
ドアに手を掛けた時、
潤が真剣な顔で口を開く。
「俺の事、好きになってよ。」
たから、
そんな眼で
言わないで……
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