小説

□オリジ
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舞台は江戸らへん
出てくるのは三味線持った琵琶法師と
商売帰りのちょっと貧乏そうな青年
そんな奴らの
月、についてのお話

古の幻影詩人

とぼ、とぼ、とぼ

夕暮れ時、少し、市場から離れた道にて
一人の青年が歩いていた
背には、夕暮れ時だというのにたくさんの商品を背負い
歩いていた
たびたび、空を見上げて夕日を見ては
ほっとため息をついて、またとぼとぼと歩き出すのだった
どうやら、市場であまり物が売れなかったらしい
一日だけならまだしも、それが何日も続いているようだ
・・・その青年の瞳は、暗く、輝きがなかった

〜〜〜〜

ふいに、どこからか歌が聞こえた

・・・だれだ?

どこからか聞こえてくる音に耳を傾け、聞き入る
聞こえてくるのは、どうも、三味線の音らしい
青年は、一歩、一歩と、その音に近づいていった

近づくにつれて、姿がはっきりと見えてきた
だれかが豆腐屋の店の角で歌を歌っているらしい

「〜〜続・・・く・・たか・・ら」

近づいたことで、歌詞が鮮明に聞こえてきた

「〜〜〜〜月へと行かん、鋼の船で、鉛の船で、煌びやかな太陽にも負けず美しく輝く月へ〜〜〜」

歌が鮮明に聞こえるにつれて、青年は不思議な感情を持っていった
鋼や、鉛の船だなんて聞いたことが無いという不信感と
いったい誰がこの世の中で月へ行くなんてことを歌っているのかという興味心とを・・・
聞けば、大抵の人はなんて世迷いごとを・・・と思って離れていくところを、青年は不振な顔ひとつせずに、近づいていった

そこに居たのは一人の琵琶法師だった
・・・いや、少し違うかもしれない
琵琶法師、というなら琵琶を持っているはずだ
しかし、目の前に居る男はなぜか三味線を手にしていた

こんな世の中にも、珍しい奴がいたものだ

半分、今の世の中を侮辱する意味をこめながら
青年は、三味線を持った琵琶法師に近づいていった

ふいに、琵琶法師が歌をやめ、こっちを見た
どうもさっきの考えを声に出してしまっていたらしい
・・・声をかけてきた

「やぁ、どうも商人さんか?」
「しがない、が先につくのですが・・・あなたは、琵琶法師なのに三味線を持っているのですね」
「あぁ、確かに持っているな、だが別に琵琶だろうと三味線だろうと大して変わらないだろう
弾いて、歌を聞かせられることが出来る、俺にとっては、そのことが一番大事でな、形にこだわる気は無いのさ」

琵琶法師はそう言い放ち、三味線をいじり始めた

・・・やっぱり珍しい奴だ

青年は、目の前の琵琶法師にさらに興味を持った
すでに、最初持っていた不信感はなくなったようだ

「・・・なぁ」
「なんだい?商人さん」

青年は、琵琶法師に話しかけた

「月に行くと、歌っていたようだが・・・本気なのか?」

青年が問いかけた内容は、この世の中で生きるものとしては当然の疑問だった

「本気さ」

琵琶法師は刹那の間も空けずにいいはなった
三味線から目線をはずし、自信に満ちた、力強い瞳をこちらに向けて、ニヤっと笑っていた

「そんなの、今の社会では無理に決まっているだろう、きっと理解もしてくれない」

青年はそう言い、空を見上げた

はぁ、こいつは生まれてくる時代を間違えたのではないだろうか
もっと先の未来に生まれていればいけたかもしれないのに・・・
そう口に出しつつ、青年は空を見上げた
空は、先ほどよりも赤く染まっており、東の空は少し黒ずみ始めていた

「じゃぁ、生まれ変わったら俺とお前で月に行かないか?」
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