359story
□青龍放流姫
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「美しい者が来るらしいのです」
何がだ?と(面倒そうに)言ってやれば嬉しそうに張コウは瞳を輝かせ、その上変なポーズもオマケとばかりに着けて答える。
「蜀の龍ですよ☆」
『青龍放流姫』
「またややこし話を持ち出したのか?」
「そうですわ」
片手に文を持ったまま振り向きざまに己が妻に聞き返した。
丁度その事に対して記された文をちらりと見やり、ああ成程と心で思う。
大体の予想はしていたので、さして驚く事もなく何事も無かったかのように室に戻る。
「あなた。どうなされますの?」
「好きにするがいい」
興味も無いと、甄姫に勝手にしろと言ってその場を後にした。
今に思えば、これがそもそもの原因だったのかもしれない。
「美しい者と聞けば幾ら我が君でも反応すると思いましたのに…」
はぁ…とため息を漏らす甄姫に「浮気調査でもしてはいかがですか?」などと馬鹿げた提案を持ち出したのは張コウだった。
いらぬ事を言うと、ここに曹丕が居たら間違いなく言うのだろうが、今は甄姫と張コウの二人だけしかいないこの場。
到底この会話を遮るモノも居ない。
「そうですわね。はっきりとさせたいですし…」
「では此方にお連れした方が良いですね」
「ええそうですわね。直ぐにお呼び致しましょう」
魏国の中心とも言えるこの場所に何故この者が?
と皆口を揃えて言…否、口には出さぬとも大体の理由は分かるであろう。
長坂の戦の折りに、曹操が欲しい欲しいとわめき散らしていたのはまだ記憶に新しい出来事だ。
何度も蜀に文を飛ばしていた事も分かっている。
劉備は余りにもしつこい文の為に頭痛を起こして寝込むぐらいだった。そんな劉備を見かねて一週間と言う期限付きで魏に行こうと趙雲は決意したのだ。
勿論一人で来るようにと記されていたのは言うまでもない。
「すみませんι少々遅くなりました」
昨晩、朝方に近い刻限にやって来た趙雲はたいして疲れも抜けていない体であるにも関わらず時間キッチリに呼び出された場所にやって来た。
「あら、遅れてはいませんよ趙雲殿」
「それでは早速用意致しましょうか」
えっ?と固まる趙雲の両腕を甄姫と張コウはぐいぐいと引っ張って湯殿へと連れて行った。