359story

□貧民恨歌
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【貧民恨歌】






敵か味方のモノかも分からぬ膨大な血の海が辺りには広がり、折れた弓や槍、剣などが無惨に地面に転がっている戦場に蒼と白の鎧が舞うように戦っていた。


「はああぁっ!!!」
猛将の振るった槍は敵兵士の剣をあっさりと叩き落し、鎧をも粉砕してまた新たな血の海を作り出す。
その場に倒れる敵兵を見て、猛将──趙雲はふう、と息をついた。

蜀軍の攻撃の要と言える重将、趙子龍。
その名は長坂の戦いで大陸に響き渡り、武人ならば知らぬ者などいないであろう。

趙雲は流れ落ちた汗を手の甲で拭い、周りに視線を巡らせた。
周りに見えるは見方の旗ばかり…自軍が苦戦しているようには見えない。

これは、勝てる戦だ…。

ほっと息をついた時、近くから聞き覚えのある声がし、そちらに振り向くとそこには自分と同じく蜀の五虎将軍の一人である馬超が居た。

「貰ったッ!!」
あの独特なダニ声(失礼)と、空回りな要らぬ気合。面白くしか聞こえないその声の方を趙雲が見ると…

「よし!肉まんゲットしたぞ!!」
「何やってるんです馬超殿……」
そこに居たのは、敵兵を倒さずに、代わりに手にしっかりと肉まん(しかも一個だけ)を持って爽やかに額の汗を拭うふりをしている青年だった。
それは趙雲でなくてもつっこみたくなる。
しかし馬超は趙雲に気付くとごく自然に、

「ああ、趙雲殿。ほら、見て見ろ肉まんゲットだ!!」
「いや、つうか戦え」
呆れて趙雲がつっこむが、馬超はやはりまるで気にしない。
それどころか偉い事を言ってきた。

「何を言っておる、勝利より食!!戦で稼がないでどうするのだ!」
「そうじゃないでしょう…」
がっくりと趙雲は唸垂れた。
錦馬超とも言う者の言葉がそれか。

「さあ!!俺は次の食料を確保しに行かねばならぬ!!では趙雲殿、また後で!!」
「あのですね馬超殿、ここは…」
馬超は趙雲の言葉を無視して風のように愛馬に跨り走り去って行く。
なぜこんな時だけ異常に足が速いのか…。全くもって謎である。
趙雲はしばしその場で呆然としていたが、やがて肩を落として深いため息をし、きっとこれは、そう。蜀が貧乏なせいなのだ…。
そう、思い込もうと努力した。
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