.

□ウチル様より頂いた小説です
1ページ/2ページ



“フリージア”


相も変わらず、自分の胸中に吹き込む風は冷たく、ピュウピュウと音を立てている。心に巣食う冬が終わりを告げる気配は全くなく、その寒さにいつも震えていた。血の繋がった従弟が、どんなに傍にいようとも、結局は孤独なのだと思っていた。


「お早ようございます、馬超殿」
朝から柔和な笑みを浮かべ、自分に挨拶する男を訝しげな表情で見返す。
「んっ?ああ、貴公は一体…」
一応、挨拶と呼べる代物ではないが、男の言葉に返す。
「あれ、お忘れですか?趙子龍です」
男は頬を掻きながら、困った様に笑い、自分の名を名乗った。趙子龍…ああ、そういえば長坂の英雄と持て囃されている男が蜀にいると聞いていたが、それはこいつであったかと、一人納得する。
「すまぬな、自分の事で手一杯なのだ。して、今日は?」
「馬超殿はこの地に来たばかりで、色々大変かと存じます。力になれる事はないかと思いまして…。」
「いや、ありがたい申し出だが、遠慮しておく。貴公も自分の事があるだろう?」
「そう…ですか。」
何か、悪い事でも言ったのだろうか?趙雲が淋しそうな顔をした様に見えた気がした。
「すまぬな…」
「いえ、そんなっ!!では、失礼致します」
頭を下げ、自分の元を足早に去っていく趙雲の背を、見送った。
「とても、可愛らしい方ですね。」
いつからか、趙雲とのやりとりを見ていた従弟が笑う。従弟の可愛らしいという言葉が、果たしてあいつに似合うものかと考えていると、従兄上は鈍感ですねとまた笑われた。


今日は、優秀な従弟の手伝いがあったからか、執務が思ったよりも捗り、時間に余裕が出来た。空き時間を使って、愛馬の世話をしてやろうと考え、厩に向かう。
「馬超殿!」
その途中、自分の名を呼ばれ、振り返った。するとそこには、先程の趙雲がニコニコと笑いながら立っているではないか。そして趙雲は、馬超が返事をしない内に、一方的に話しを始める。
「この様な所で会うとは奇遇ですね。」
「ああ、そうだな。」
「馬超殿は、どちらに行かれるのですか?」
「厩に行こうかと思っている。」
「偶然ですね、私も厩に用事があったのです!」
趙雲は嬉しそうに、そう語っているが、手に握られている書簡が、厩に行く事とは別の用事がある事を物語っている。
「貴公には、別の用事があるのではないか?」
「あっ…この書簡は」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ