おお振り短編

□走り出した想いは止まらない
1ページ/1ページ


「榛名元希ってキミだよね?」


初めてかもしれない、こんなに惹かれる女に出逢ったのは。

(まぁ、宮下先輩は例外だけどな、)

宮下先輩よりも惹かれる何かを持っている気がする。



「そうだけど、お前誰だよ」



近くはない距離で話す女にオレは少し近づいた。別にもっと近くで見たいとか思ってないからな。

その女はオレが近づいた分だけ距離をとった。なんでだ?



「気にしないでいいよ。ただ、キミに渡すものがあったから、…ところで、キミ本当に榛名元希かい?」



首を傾げこちらを睨むように凝視する。でも、そんな顔も奇麗だと思ってしまった。


コイツ、オレの顔を知らないのに来たのか?



「だから、そうだって言ってんだろ。それより、渡すものってなんだよ。」


さっきから話が進まない。こんな女に任せた奴は馬鹿なんじゃないのか?



「あぁ…忘れないうちに渡すよ。コレ、キミの知り合いからだよ。」


女が渡してきたのは一通の手紙。白い封筒に『榛名元希へ』と書かれている、誰だ?

差出人は分らないのですぐに開けてみた。



その手紙はタカヤからのモノだった。



なんで、この女がタカヤからの手紙を運んでくるんだ?



「お前、タカヤとどんな関係だよ?」



ちょっと睨んでみると女はにやりと笑い、数歩後ろへ移動した。

そこで少しだけ口を開けた。



「気になるかい?阿部隆也との関係。」



いちいち、この女は癇に障るように聞き返してくる。きれいなのは顔だけか。

気になるんだから仕方ないだろ、



「知りてぇから聞くんだろ。早く言えよ」


「私にはキミに教える義務がないからな、教える訳ないよ。残念だね。」



バイバイと手を振り、くるりと身を翻し走って行ってしまった。

逃げられた気がする。しかも、関係を教えないとか言いやがって…ムカつくな。



「そういや、タカヤの手紙って何書いてあんだ?」




開いた手紙に目を通す。



『お久しぶりです。この手紙を読んでる頃にはアイツは帰っているでしょうね。
その内、会うかも知れませんが話し掛けないで下さい。さようなら。阿部隆也。』



ぐしゃっ



手紙を握りつぶしてしまった。

なんだコイツ、すっげぇムカつく。てか、結局なにがしてぇんだよ。

あの女のことは何も分からなかったし、…そうだ、西浦に乗り込んでみるか。





「待ってろよ、タカヤ!オレの方がカッコイイんだよ、あの女はオレがもらう」






走り出した想いは止まらない。




(なんか寒気がしたんだけど…)
(阿部、お前さ、なんで私に届けさせたんだ?)
(そりゃ、お前に惚れさせるためだ)
(惚れ、ってなんでそんなこと)
(相手方の投手を潰すのも策の内だ。)
(私はエサか何かなのか…)





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ