おお振り短編
□手の届くことのないキミに私は別れを告げる。
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ごめん、何もできなくて…。私はクズだ。キミを悲しませることしかできない。
手の届くことのないキミに私は別れを告げる。
ごめん、ありがとう、さようなら…。もう、キミが悲しむことはないだろう。
私のことを許して下さい、キミだけにこの命を…。殺してしまった、愛するキミに。
殺してしまった男を埋めました。あなたの為に手をかけた、初めて心から憎んだ男を。
あなたの友を殺しました。悲しむあなたが見たくなかったのです、私を憎んで下さい。
心に深く私の存在を刻み、忘れることのないように。
目の前で死んでごめんなさい。私はあなたに忘れられることが怖いのです。
私はあなたがいなければ、イミガナイカラ…
「ねぇ、本当は理由が欲しかっただけでしょ?」
目の前に在る塊に呟く。
本当は殺したくなかったのに殺して、「あなたの為に」って言ってさ。
しゃがみ込んでキミだったモノを抱き上げて歩く。埋められた友のいる場所へ。
「好きだったけど、無理で、でも諦められないから殺した。その理由にオレを使わないで欲しかったけど…、仕方ないか。」
キミは聞いてくれないから独り言。オレはキミが好きだったよ、キミは違ったけど。
せめて、最後はアイツの側に居させてあげるよ。こんなことになるなんて、少し驚いたけど…そんなにオレは魅力がないのかな?
辿り着いた場所は綺麗な川原。人なんて滅多に来ないから雑草は伸び放題だけど。
そこにキミの愛した男が眠っている。たぶん、キミを恨んでいるはずだけど。
「離れないために殺して、愛情表現の様な言葉を残してオレの前で死ぬなんてすごく考えた結果なんだろうなぁ…、見事にバレてるけど」
掘り返すと埋めたばかりであろう友人がそこに眠っていた。
「昨日ぶりだね…、こんなことは予想できなかっただろうね。ご愁傷様、阿部」
本人に言う言葉じゃないけど、それしか言えない気がしたから。
キミを埋めるのは気が乗らないけど仕方ない。
血塗れのキミを阿部の横に寝かせて土を被せていく。誰かが見つけるまで二人きり、阿部が羨ましいな。キミに想われて、殺されて…。
「あー、オレってカワイソウな男だと思う…。キミ以上の素敵なヒトが現れないかなぁ」
不敵に笑うのはオレ以外に、ありえない。
行方不明の二人は静かに眠る。
二人が発見されたのは2か月後だった。
キミと阿部じゃ、十分な時間だったね。