Main

□絆-only you-
2ページ/9ページ

†C side1†
―桜の中で―


「氷帝学園中等部…か。」

そんな呟きを発しながら、俺は桜色に染まる校門をくぐった。
……正直、少し不安だな。
友達…部活…。
これから新しい生活が始まるんだ。
…部活か……。
テニス部に入部したいけど…
氷帝テニス部は実力主義で、レギュラー入りがとても難しいって聞いた。
1年の俺には夢の話だろうな…。

「俺……本当にやっていけるかなぁ…。」

桜を見上げて歩きながらまた何気無く呟いた時……突然強い風が吹いた。
立ち止まり、思わず目を閉じて手をかざして風が過ぎるのを待つ。
そっと目を開けた俺は……



―――あの人と出逢った。



幻想的な風景…沢山の桜の花びらが風に舞っている。
……その中にあの人は立っていた。
吹き抜ける風に、高く結い上げた長い綺麗な髪を揺らして…。
大きな桜の木を、強い眼差しで見上げていた。



……あれを、一目惚れっていうのかもしれない。
思わず見とれていた俺の存在に気付いたあの人が唐突に俺の元へ歩いて来た。
何も反応出来ずに立ち尽くす俺に、あの人が言った。

「…何、見てんだよ?」

初めて聞いたあの人の声。何だか不機嫌そうな…少し低めの声音。
何か言わなくちゃいけないと思い、俺は取り敢えず答える。

「すみません…教室行かなくちゃいけないんですけど、まだ慣れてなくて…」

…半分嘘だ。
慣れていないのはその通りだけど…この前の入学説明会の時に学校の造りは大体頭に入れてあるから、迷った訳じゃない。

「お前…1年か?」

あの人がさっきよりは少し柔らかい口調で俺に訊ねた。
俺は一回頷いて質問に答える。

「はい。…1年の鳳長太郎といいます。」

軽く頭を下げてからあの人を見ると少し驚いたような表情をして俺を見上げている。

「…どうしました?」

何を驚かれているのか分からない俺が問い掛けると、少し言いづらそうにあの人が言った。

「…背、高いんだな。」

……ああ、そういう事か。
小学校の時から初対面の人には身長についていつも驚かれていた俺は、あの人の言葉を対して気にせず微笑んだ。

「何時も言われます…。……あ、あの、先輩のお名前は…?」

そういえばまだ聞いてなかったなぁ…等と思いながら訊ねてみる。
…あの人も今気付いたみたいだ。

「あ、悪ぃ……俺は2年の宍戸亮だ。」

俺はあの人の名前をしっかり頭に刻んでからまた微笑んだ。

「ありがとうごさいます。」

お礼を言った時、また少し強い風が吹いた。
目を細めるあの人の髪が風に揺れている。

「…先輩。髪、綺麗ですね。」

素直に…と言うか何気無くいっただけのつもりだったんだけど…

「な、何だよいきなり!?き、綺麗じゃねぇしっ!」

明らかに動揺した、不機嫌そうな口調の反応………でも何だか嬉しそうだ。
どうやら照れさせてしまったみたい……かな。
少しだけさっきより顔が赤くなっているあの人の姿が可愛く見えて俺が微笑んでいると……。

「な、何笑ってんだよ?…もう時間だろっ、は、早く行け。」

照れ隠しなんだろうな。
俺に背を向けて顔を見せないようにしてる。
やっぱり可愛いな…。
もう少し見ていたかった気もしたけど、本当に時間が迫って来ているのが分かっていた。

「あ、じゃあ俺行きますね。」

俺は教室へ向かおうとしたんだけど……。
…あれ?…行かないのかな…?

「あの……先輩…?」

動こうとしないあの人に思わず声を掛けた。

「ん?…あぁ、俺も戻る。」

…何か考え事でもしていたのかな?何だか少し上の空みたいだった。
俺の問い掛けに答えたあの人は、少し慌てて近くに置いてあったテニスバッグを肩に掛け校舎へと駆けて行った。

「あの人もテニス……するのかな…」

そんな事を呟いた時、学園にチャイムが響いた。
チャイムに少し驚いたけど、俺はすぐに走って教室に向かう。




また…会えるといいな…。



そんな小さな思いを胸に、走りながら俺は思わず笑みをこぼしていた―――。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ