Main

□オワリノコトバ
2ページ/5ページ


「…ごめんな、長太郎」

そう言って貴方は、銃を向けた。
俺の心臓目掛けて。

「…いいですよ」

不思議と、死に対する恐怖はなかった。
むしろ、どこか晴れやかな気持ちで笑顔さえ作れた。

「宍戸さんに殺られるなら、本望です」

生の最後に記憶に残せるのが貴方で良かった。
だから、悔いなんてありません。
…最後に俺の我儘を、許してくれるなら。

「ひとつだけ、約束してくれませんか?」

「…なんだ?」

「…生きてください」

もう二人で歩む事は、出来ないけれど。
ダブルスという繋がりも、崩れてしまうけれど。
貴方の隣にいる事が、もう出来ないけれど。
…それでも、貴方だけは。
宍戸さんだけは。

―――…どうか、生きて。

「…お前は、最期まで俺に優しいんだな」

そう言って俺を見る宍戸さんは、どこか泣きそうな…。
儚い小さな笑みを浮かべていた。

「それに、バカだ」

生きたいと、言えばいいのに。
目の前の殺人鬼を…恋人さえ手に掛けようとする、愚かな自分を。
ポケットに入っているその銃で、殺せばいいのに。
それを言わない俺を、貴方はバカだと言った。

「…バカでいいです」

だって、貴方には生きて欲しいから。
沢山の愛を受けて育った貴方に。
俺がこの世界で唯一愛を捧げた、貴方に。

俺は宍戸さんに近付いて行く。
引き金をまだ引くつもりがないことは、何となく分かっていたから。
そして俺は自分の腕の中に、最愛の人を捕まえる。
…俺に向けられたままの銃が、左胸に当たるように。
…貴方の放つその弾丸が、外れないように。

「…激ダサ…」

貴方の口癖を、小さな呟きを聞きながら。
俺はゆっくりと目を閉じる。

―――…一つの光が、銃声と共に消えた。

.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ