絶望

□冬の罪
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私が彼を最初に見て最後に見たのは今日のような雪の降る冬の寒い日だった。ちなみに時間は放課後。雪がちらちらちらちら降ってて一緒に帰ってた友達とその日あたしは馬鹿みたいにキャッキャ騒いでた。それで、帰りコンビニよろーよ、肉まん買おーとか笑いながらコンビニのほうへ方向転換した瞬間いてっ、という声と一緒にあたしの背中に人の感触がぶわぁって広がった。くるりと振り返ってみてみればその人は袴姿というあまり見ない格好で少し積もった雪の上で座り込んでいた。そしてなぜかとてもかっこよかったためあたしは焦った。
「すっすいません!」
「いえいいですよいいですよ」
「でもっ、雪が…」
「すいません、先を急いでいるので」
言いかけたあたしの言葉を手で遮り、その人は立ち上がって雪を払うと足早に立ち去ってしまった。何だあの人、みんなでぽかんと大口開けていると友達があの人なんか書類落としてるよってあたしの前でぴらぴら紙を泳がせた。よく見るとそれは重要だの、機密文書だのとにかく大事な物っぽいニュアンスだけは馬鹿なあたしでも分かったためせめてもの罪滅ぼしに届けてあげるという事にし、もう一度あの人を見たいがために友達に別れを告げてきた。クリスマス前にあんな大人な彼氏が居たら良いななんて思って。



そしてその後あたしはその人の高校にいった。書類に書いてあった住所の高校の校門前には人だかりができていた。あたしも野次馬にまぎれてその人ごみの中に入り込む。人を押しのけてようやく輪の中心まで来ると唖然となった。彼が血まみれになって倒れていたのだ。白い雪の上にそこだけ赤く染まっていた。「な、んでっ、」そのうちにけたたましいサイレンとともに救急車が到着し、彼は乗せられていった。

彼は死んだそうだ。

後から聞いた話によると彼はひき逃げされたらしい。その日大切な会議が学校であったのにもかかわらず、大切な書類を家に忘れたため、一旦自宅に戻っていたそうだ。それで学校に帰ってきた所どこかに書類を落としたのに気付き、着た道を戻ろうと校門を出た瞬間、轢かれたそうだ。

それを聞いた瞬間あたしはわああって泣き崩れて家族の居る前だったのにもかかわらず泣いた。あたしのせいで、彼は死んだのだ。轢かれたのだ。あたしがあそこでぶつからなければ彼は戻る事もなかったのだ。あたしが殺してしまったようなもんなんだ!


これが何年かたった今でも思い出す、苦い冬の思い出である。ただ1つ言えるのはあたしは確かに彼を好きだったらしい。


冬の罪
(もしもあなたが生きていて)
(良いですよ、と許してくれたとしても私は)
(自分とこの季節が好きになれないのです。)

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