ACE COMBAT     〜DOG OF WAR〜

□始まりの狼煙
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2005年

7月5日

13:25


ビュセックの森


EH101が森の中でも比較的開けた地点でホバリングを始め、ローターが巻き起こした猛烈な風が木々を揺らす。
木の葉や枝を吹き飛ばす強風の中に、EH101からロープが投げ出され、ラペリング降下で数人のイベル人兵士達が降り立った

「安全確認!
行け行け行け!!」

真っ先に降下したイベル人兵士達が降下地点の安全を確保し、後続の兵士達が次々とラペリング降下を行う

「エァリーツァロォイ!
アルトゥムゥーネ!!」

「エリーシェンダルス!
リーエリーネ!
エンゲシュバァイッ!!」

彼らイベル人達に続いて降下したGASFの隊員二名は、自分の装備を整えながらイベル人達の会話を聞き、何処か別の世界に降り立ってしまった様な気分になる。
イベル語で話す彼らは、テキパキと周囲の安全を確保しながら前進を始め、孤立無援の状態で森の中に潜んでいるであろう、グリーメイア空軍パイロット達の捜索に入る
「グリーメイア人!
余計な手間をかけさせるな!
死にたくなければ動け!」

低倍率スコープやフラッシュライト。
レーザーサイト等のオプションで禍々しくなったMINIMIを肩に預け、二人に向けて怒鳴りつけたのはイベル人の軍曹だった。
背の丈190は裕にあろう巨体と、浅黒い裸と琥珀色の目。
その目に睨み付けられ、二人は彼が敵なのか味方なのか分からなくなった………





























その頃、ハル達は石や丸太でタコツボの周囲にバリケードを築き上げ、先の戦闘で使用したタコツボの中には安全ピンを抜いた手榴弾を置き、その上に丸太を置いた簡単なブービートラップを仕掛けていた

「こんなもんに引っ掛かる奴って居るのか…?」

明らかに不自然な丸太の下に、それらしいサイズの石を手榴弾の様に置いたハルは、木漏れ日の中で一息つこうと座り込んだ。
木々を駆け抜けて行く心地良い風と鳥の囀り。
そして、その風に揺れる葉音と、皆が雑談しながら作業している雑音。
その中でハルが想う事は一つだった

「モニク……」
マドラステアに居るであろう恋人を想い、改めて自分が置かれている状況を整理する。
父親の居ない子供…
マーティン准将の言葉が胸を刺した

「無理…かもな……」

戦死しない保証も自信も無い現状では、あの約束を果たす事さえ困難な様に思えた。
自分が戦死する訳にはいかない事は分かっている。
今まで何とか生き延びて来たのは確かだが、同時に次があるという保証など何もない

「どうなっちまうんだろう……」

そんな言葉が無意識に溢れ出た。
幸いな事に、こちら側には戦死者も負傷者も居ない。
しかし、次も無事に済む保証も無い。
そして自分が戦死しない保証も…

「これじゃ堂々巡りだ……」

気分がナーバスに。
そして気持ちがポジティブになって行く中、俺は自分に繰り返し言い続けた。

ただ疲れているのだ。
だから気持ちが弱くなっているのだと。

しかし、胸騒ぎと不安な気持ちは静まらないままだった。
何度も何度も、その心を誤魔化し、欺きながら作業を続けていた俺は、既に大切な存在が危険な状態に陥っていた事を知らなかった。
モニクが集中治療室の中に居る事など………






13:15

グリーメイア海軍
軍人医療センター
集中治療室


ヘリで西カレナの総合病院から緊急搬送されたモニクは、海軍軍人医療センター集中治療室に担ぎ込まれて優先的に治療を受けていた。
幸い搬送時に意識ははっきりしていたが、今のモニクは麻酔の影響で眠りについていた。
左目の手術を終えたモニクの寝顔は、ガラス越しに見える限りでは穏やかだ

「よく保っている。
あれだけの大怪我だったのに、彼女は君に似てタフだ」

「あれでも戦闘機乗りよ?
私達じゃ想像も出来ないGに耐えて戦って来たんだもの。
私の妹は、きっと貴方よりタフよ?」

モニクの姉。
フィリア・キッシンジャーは、そう言ってガラス越しに妹の姿を見つめた。
その眼は不安そうであるが、隣に居る将官。
アーネスト・キッシンジャー少将の眼に不安は無かった

「姉が姉なら妹も妹か…」

「何か言った?」

キッシンジャー少将は苦笑いで首を振ると、高級そうな腕時計を確認する。
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