ACE COMBAT     〜DOG OF WAR〜

□始まりの狼煙
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「もう時間だ。
カレナの協定違反で此処も大忙しでね。
前線に派遣される海兵隊所属の軍医達を、海軍衛生科の幹部連中と一緒に見送りに行かなきゃならないんだ」

「42の軍医総監殿は大変ね。
今夜も帰らないの?」

医学界の天才児。
人は彼をそう呼ぶ。
僅か25才で民間病院の外科部長にまで登り詰めた彼は、フィリアを妻とした35才でグリーメイア海軍の軍医に転身。
そこから約7年で軍医の最高位。
ユーク時代を含めても、史上最年少でグリーメイア海軍軍医総監にまで成り上がった。
空軍の戦闘機パイロットであるモニクが、海軍軍人医療センターで優先的に治療を受けられるのは、この軍人医療センターの統括責任者が義兄。
アーネスト・キッシンジャー少将その人であり、父マーティン准将が戦功によって中将に昇進した事で、軍全体に影響力を発揮し始めた事も大きい


「戦争が終わるまで暫くは缶詰めだろうね…
今回の件で死傷者が爆発的に増えて、現場では軍医の絶対数が足りていない。
その手配と管理も仕事のうちだ」

白衣の下に重厚な軍服を纏ったキッシンジャー少将は、メガネを直しながら続けた

「前線では多くの兵士達が撃たれ、苦痛に耐えて苦しみながら戦ってる。
我々が怠けていたら、運び込まれて来た彼等に顔向け出来ない。
私はユーク義勇兵部隊の一員として、ベルカ戦争に参加して最前線を見て来た。
だからかな…
妹さん…
モニクが運び込まれて来た時に、あの時の記憶が鮮明にフラッシュバックして来たよ。
私は軍医総監である前に、やはり一人の軍医であり外科医なんだ。
やはり、このまま軍医総監としての事務仕事に忙殺されて、軍医としての腕を腐らせて行くのだけは御免だ」

「軍医総監を辞めて前線に戻る…
なんて言わないわよね?」

フィリアの表情を見て、キッシンジャー少将は苦笑いを浮かべた


「言わないよ。
何より君の両親が許してくれないさ。
ブリュワーズ閣下は名実共に提督となって、今や海軍の中でも強い影響力を持つに至った。
今更、ブリュワーズの家を裏切れる筈も無いからね。
見返りも無い。
だから私も、君の為に更に上を目指すさ。
ただ…」

再びガラス越しにモニクを見つめ、少将はフィリアの髪を撫でた

「モニクにも幸せを掴んで欲しい。
だから私が助けてやりたいんだ。
あの子の仲間達を。
大切な恋人を…
その為には前線に出て、すぐ間近に居て何かの役に立ってやりたい。
あの子も、そう思って危険を承知で身重ながら安全圏から飛び出した。
まるで前線の軍医さ。
撃たれるのを覚悟で、死んでも良い覚悟で仲間を救う為に飛び出して行く…
そう思ったら、なんだか急に前線の救護所が懐かしくなってね。
ただ妊婦は妊婦らしく、安全圏で安静にしていてくれなきゃ困るけどね」

そう言うとキッシンジャー少将は、改めて困った子供を見る様な目でモニクを見つめた


「昔から活発な子だったけど、まさか妊娠しても無茶をするとは思わなかったわ…
下手な男より、よっぽど軍人らしいわね」

呆れた様に溜め息を点いたフィリアも、キッシンジャー少将同様の苦笑いを浮かべた

「軍人になった以上、戦争になったら躊躇無く真っ先に死ぬ覚悟って言ってたけど、やっぱり妊娠と出産は女にしか出来ない事なんだから…」

「「自覚して欲しかった」」

声が重なり、二人は見合って互いに笑みを浮かべた。
やはり思う所は同じだ。
フィリアは実の妹として。
少将は義理の妹として、モニクが恋人を作って、二人の子を宿したとフィリアから聞いた時、少し複雑であったが嬉しかった。
しかし妊娠して身重となっても尚、その恋人の為に前線に残りたいと言った彼女の気持ちは分からなくもないにせよ、軍医としても義兄としても大いに大反対だった

「不幸中の幸い。
お腹の子は何事も無い様で安心したが、世話の焼ける義妹を持ったものだ。
義母さんに何て話せば…」

フィリアが少将の裾を引き、咳払いをして何かを促した

「総監。
間もなく御時間です。
宜しいですか?」
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