ACE COMBAT     〜DOG OF WAR〜

□始まりの狼煙
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大尉の階級章を付けた軍医は敬礼し、キッシンジャー少将に時間を告げる。
ガラスの向こうでは心拍数と血圧が安定し始めたモニクが眠り、隣ではフィリアが真剣な眼差しで控えていた。
やはり姉妹だ。
鼻筋や目元。
話し方や声まで似ている。
その真剣な表情もだ

「近場にホテルを手配してある。
義母さんに言って荷物も送ってもらった。
暫くはホテルから通えば良い」

「ありがとう」

妻フィリアの頬にキスを落とし、キッシンジャー少将は大尉を連れて歩き出した

「うがい手洗いをきちとして」

「「食事の前に手を洗うんだよ」」

そう言い残し、グリーメイア海軍軍医総監アーネスト・キッシンジャー少将は、笑みを浮かべて集中治療室を離れて行った。



































GASFの隊員に案内され、ハル達はEH101の着陸地点に急いでいた。
既に森の中ではカレナ海兵隊と連合軍部隊との戦闘が開始され、激しい銃声と爆発音の応酬が繰り返されている

「少尉。
状況は?」

ハルがGASFの少尉に状況説明を求めると、その少尉は周囲を警戒しながら説明を始めた
「既にカレナの先鋒はセントラル・バースの北約30キロまで到達しました。
開戦時同様に機甲部隊を前面に押し出しての電撃戦で、航空支援が無い我々には損害ばかりが出ています。
ベルムスガルテンは完全包囲されて死兵と化し、ゲオルグ基地とマドラステアも攻撃を受けたばかりなので、暫く航空戦力を投射出来る状態では無いそうです。
それと少佐……」

少尉の耳打ちは、俺の胸騒ぎと不安を増大させると共に、あの時に感じた嫌な予感が的中していた事を証明した

「…何処に運び込まれたんだ?」

「海軍軍人医療センターです。
今は面会出来ませんが…」

唐突に響き渡った爆発音の後、隊列の後ろから叫び声とフランクリンの怒声が聞こえて来る。
すぐ近くから連射されるライフルの銃声と、近付いて来る誰かの叫び声。
そして、その誰かを励まし続けるフランクリンの声。
その誰かを担いだフランクリンの姿が見えた時、俺の心は激しく打ちのめされた

「……そんな…
ヴォルフ……」
両目から流れ出た血の涙で血まみれの顔と、両足を吹き飛ばれた激痛に喚き散らし、自分の状況が全く分からない恐怖に叫んでいる19才の青年を、フランクリンが背中に担いで走って来る。
走る度にヴォルフの血が地面に滴り落ちていた

「ハル!
そいつに言って衛生兵を大至急呼んでくれ!
早くしろ!!」

走って来るフランクリンの姿を見て、少尉は何を言わずとも無線に向けて叫ぶと、大腿部に固定された医療パックから鎮痛剤と止血帯を取り出し、フランクリンの背中で暴れるヴォルフに鎮痛剤を注射し、止血帯で手早く応急処置を行って行く

「ロケット弾か…!
もう少しで衛生兵が来る。
それまで耐えろ。
少しだけ耐えれば良い。
少しだけだ」

鎮痛剤の影響で徐々に大人しくなっていくヴォルフの耳元で、落ち着かせる様に囁き続ける少尉。
先程よりも格段に落ち着いたヴォルフだが、今度は血の気が引いて行くのがハッキリと分かるほど、顔の血色が悪くなり急激に顔面蒼白状態になっていく

「急激に血を失い過ぎたか……」

少尉がヴォルフの脈を計りながら無線で衛生兵を催促するなか、フランクリンはヴォルフの手を握りながら泣き崩れていた。

時折だが嗚咽を漏らし、肩を震わせて泣き崩れたフランクリンの背中は、ヴォルフの流した血に濡れているが、その後ろ姿に自信や覇気は失われていた。
いつも見て来た背中は、ヴォルフの胸に顔をうずめながら泣き崩れる後ろ姿は、初めて見る位に小さな姿だった

「大尉が無事なら……
……それだけで…
それだけで充分です……」

「……でも死んじまったら意味ねぇだろうが…!
そういう事は生き長らえてから言うんだよバカたれがっ…!」

消え入りそうに弱々しい二人の会話が、俺の心を突き抜けて行った……

























ヴォルフまで……
























俺は口ばかりだ………












































衰弱し、死の淵に一歩ずつ近付いているヴォルフを前にしても、俺は何一つ出来ない………

















戦争の中では、戦場の真ん中での俺は、あまりにも無力だった……………
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