ACE COMBAT     〜DOG OF WAR〜

□若者が見た空
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「仲間の為、部下の為…ですか……」

カップに残っていたコーヒーを一気に飲み干し、改めてベルテ中佐の目を見据える

「中佐。
話す事は、それだけじゃ無いですよね?」

怒りとも憤りとも取れない心を押し殺し、じっくりと見極める様に見詰めた先で、ベルテ中佐はコーヒーを飲み干し、目の色を変えて口を開いた

「本題に入ろう。
問題の師団長。
鉄人ジョーに関してだ…」

「中将閣下に関して…?」

胸ポケットから取り出したタバコに火を点け、ベルテ中佐は紫煙を吐き出しながら続けた

「今回の件で、ミッチャー大佐が彼について調べてみたんだが…
大佐曰わく、ある時を境に鉄人ジョーとは違う部分が出て来たらしい。
あのベルカ戦争を境にな……」

「ベルカ戦争……」

ベルカ戦争を境に、鉄人ジョーとは違う部分が出て来た……
中佐は続ける

「ベルカ戦争中、中将はユークが派遣した義勇軍を構成する第136航空隊司令だった。
その時は緑の瞳と縁無しメガネ。
金髪の長身で、割とハンサムな空軍大佐だった。
部下達の体調管理を何よりも大切にし、どんな激戦の中でも必ず一週間に一度は休暇を与え、各隊でローテーションを組ませて任務にあたっていたらしい。
それが今じゃどうだ?
休暇も無ければ、ローテーションを組んで任務にあたる事も無い。
名将と呼ばれ、部下達からも絶大な支持を得ていた司令官……
短期間の内に濃密な戦闘を繰り広げて来たのは確かだが、素人目に見てもパイロットを疲労とストレスで、イタズラに擦り潰しているだけだ…!
俺もお前達も、開戦以来休暇なんて貰えた試しも無い。
そしてモニクの一件だ。
ミッチャー大佐も、カレナ側が反撃の準備を行っているらしい情報は掴んでいたし、他の佐官級将校も同様に情報は持っていた。
この采配ミスは、部下思いの名将って名が泣くぜ……」

縁無しメガネは年齢で地上勤務になった事で、コンタクトに変えたと聞いた事があるが、週1の休暇やローテーション制は初めて聞いた。
第一に師団長となった将官を、マジマジと見る機会など無い。
せいぜい回報やホームページ上に掲載されている写真や、たまに行われる訓示や閲兵式程度が関の山だ。
しかし師団長自らの訓示も閲兵式は、開戦以来のゴタゴタで行われていないし、前任の師団長は知らないうちに統合参謀本部の構成員となって栄転している。
俺にとって、モニクの件をベルテ中佐から聞かされるまで、本当に雲の上の存在であったのだ。
師団長について、俺は知っている事の方が遥かに少ない

「そして、決定的な相違点を見つけた…
血液型だ」
























「中佐…!
まさか!」
























思わず大きな声を出してしまった俺に、周りの視線が釘付けとなるなか、ベルテ中佐は咳払いをして改めて続けた

「第三航空師団。
師団長のロゴフ中将はA1の筈なんだが、今のロゴフ中将はB2…
ベルカ戦争中にも、その後も輸血を受けた記録は無い。
第一にA型とB型では違い過ぎる…
これじゃ……」

「全くの別人ですね……」
それきり俺達の間には沈黙が訪れ、ホールを行き交う兵士達の軍靴と、カレナ語やグリーメイア語の会話だけが耳を打つ。
その沈黙は、短くなったタバコを灰皿で揉み消し、次のタバコを取り出したベルテ中佐に、俺が一本貰おうと声をかけるまで続いた。
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