サンデー系

□桜波
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「鈴木」
「あ、清水君」

 片手を振って歩み寄って、こうして顔を突き合わせて話すのは随分久しぶりだと思った。
 自分達は丁度1年前にこの聖秀高校を卒業したのだ。
 後輩の卒業を祝いがてら、久しぶりに会おうと、君にメールをした。

 1年目の大学生活は、思いの他忙しく中々会う事が出来なかった。
 しかし思えば、去年大学受験が迫って以来、クラスメイトなのに殆ど話をしなかった。
 いやそんなのは言い訳だ。本当は、大会が終わった後から殆ど口を聞いていない。
 お互い多少気まずいのは分からないでもないけれど、自分達は仮にも、恋人同士であるというのに。

 暫く埋め合わせのように互いに大学生活の話をして、ふいに言葉が途切れて、

「・・・ねえ清水君」
「何?」
「私達、もう別れようか」

 落ちた言葉は唐突で、瞬間空気が張り詰めるのが肌で分かった。

「何、で?」
「だって、もう2年経ったけど、私達、結局全然一番同士になれなかった」

 野球部のキャプテンと、マネージャー。
 そんなあまりにも有り触れたカップルだった。
 告白がどちらからだったかは忘れてしまった。とても、そう何となくだったから。
 高校2年生の夏の大会の予選で敗退して、来年が最後だと覚悟して、そんな時だった。
 多分、あの時あのタイミングだったからこそだ。

 でも確かに好きだった。苦手な部分も勿論あったけど、基本的には楽しかったし幸せだった。
 君はとても優しくて、だから自分はそれに甘えてばかりいたような気がする。

「中々会えないし、遠距離恋愛してまで続ける程の事じゃないと思う」
「・・・・・・そう、かもね」

 同じ高校に通っていたのだ。遠距離、という程遠くはない。ただ、気持ちの問題だ。
 本当は最初から知っていた。君の一番が自分ではないことも、自分の一番が君ではないことも。
 それでも、相手を大切にしている内に、それはすげ変わるのではないかと、期待していた。
 なのにお互い、何一つ変える事が出来ないまま、この日を迎えてしまった。
 だから潮時なのだと思った。これ以上君を巻き添えにしてはいけない。

「良ければ、ずっと友達で」
「うん。そうしてくれたら、有り難いよ」

 きっと悪いのは全部自分なのだ。
 君を好きになる事で、あの人を忘れられるのなら、多分その方が幸せだろうと心のどこかで思っていた。
 目の前の人を好きだと思ったのも言ったのも決して嘘じゃない。
 けれども、言っても余りにもどうしようもない事だったから、決して口にはしなかったけど、

 自分は今でも、先輩のことが、

「ごめんね」
「さよなら」

 桜を纏って笑う君はとても強くて、綺麗で、
 ざあざあと波音を立てる桜は、1年前よりも、 年前のあの卒業式よりも満開で、
 だから自分も笑って。自分よりずっと背の高いあの人を見送ったときのように。
 あの時は、後で散々泣いてしまったのだけれども、

 今度はどうか笑って終わりに。


 視点はどっちでも。
 大河→吾郎或いは綾音ちゃん→寿君で。
 最後のは「ごめんね」が大河、「さよなら」が綾音ちゃんのイメージ。
 大河の方が大分引きずると思う(笑)。ていうか呼称は「鈴木」で合ってますか?

344 さざなみの音がいなくなった君を脳裏に浮かびあがらせてしまう

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