サンデー系
□前略名探偵
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前略 親愛なる名探偵
ねぇ名探偵、
貴方は、貴方の身体が小さくなる以前、私と貴方が対等だと思っていたようだけど、
貴方は探偵で、私は怪盗だったのです。
ねぇ名探偵、
貴方は、貴方が小さくなって、今のところ私が優位に立ってしまったと思っているようだけど、
貴方は正義で、私は悪なのです。
ねぇ名探偵、
貴方は、貴方が私を捕らえれば貴方の勝ち、私が盗みに成功すれば私の勝ちというそのゲームのルールを、全く公平なものだと思い込んでいるようだけど、
貴方が盗みを阻止して、しかし私がトンズラこいた場合、貴方は引き分けだと、或いは自分の負けだと思っているようだけど、
私は盗みに成功しても、それが月を透かさないならすぐさま次の舞台に上がらなければならないのに、貴方が私を捕らえた暁には、私は永久的に敗北者となるのですよ?
ねぇ名探偵、お前は俺の事、その正体以外だって何一つ分かってないだろう?
貴方と私は対等ではない。
幾ら私が世間でちやほやされてみても、鮮やかな手口を美しく成功させても、盗んだもの全て速やかに返却しても、決して誰にも傷を付けないというルールを順守しても、父親の死の真相を暴く為という1つ目的があったとしても、時折貴方に手を貸したり、或いは自ら犯罪を阻止しようと奔走しても、
私は所詮は怪盗なのです。
私から宝を守る為の警備には設備には人々が一生懸命働いた賃金の一端がつぎ込まれているし、
いつまで経っても私を捕らえられない中森警部には、多少なりとも上からお咎めがあるだろうし、
気丈に見えてもそんな父を見て青子は神経をすり減らしているに違いないのだ。
一方で貴方は事件に遭遇すれば或いは自ら嗅ぎ付ければ、与えられたその才能全て、誰かを泣かせない為に、何かを闇に葬らない為に使うのです。
私がIQ400もマジックの技術も全部悪戯の類に費やしていた小学生や中学生の頃からずっと。
そうやって愛する幼馴染を、少し親しいだけの知人を、或いは全く名も知らぬ他人を、貴方は守り、救い続けるのですよね。
皆が、名探偵が、気付いていないだけで、俺達は何一つ対等ではない。
貴方の正体に気付いたのは偶然でした。
電話の盗聴を言っているのではないですよ? 確証はあれで得ましたが。
それよりもっと以前、あの屋上で、そう私が貴方を『唯の評論家』呼ばわりしたあの時です。
別に貴方の落ち度ではありません。ただ一度だけ、私を現場であれ程追い詰めた人の、その瞳のいろを、
私が忘れられなかったという、ただそんな理由。
まぁ今の名探偵は私の幼い頃にそっくりなので、そうでなくても気付いたでしょうが、それだって貴方が悪い訳じゃない。
しかしお気をつけ下さい名探偵。
電話の盗聴をしているのが、いつも私ではないのですから。
今の貴方は、以前にも増してたった一度の間違いで死にかねないのですよ?
そう言えばあの屋上で貴方は私を巨匠にして下さると仰いましたね。貴方が、私を墓場へ送って下さると、
貴方が、私を殺して下さるのだと、言って下さいましたね。
別に私は、芸術家になりたいのでも、巨匠になりたいのでもないのですが、どちらにしても、先に貴方が死んでしまってはそれを果たせないとは思いませんか?
貴方が死んで伝説になること何て、私も誰も望んではいない。
この間の飛行船で、貴方がテロリストを睨み上げたその時、貴方があの無骨な片手で易々と掴み上げられ窓から放り出されたその時、
私がどれ程恐怖したか、貴方に分かりますか?
必死に手を伸ばして小さなその足を掴んだ時、私がどれ程安堵したか、その一端でも伺うことが出来ますか?
礼の1つも告げず、「飛行船に戻れ」と命令を飛ばした貴方の言葉が、どれだけ私に歓喜を呼んだか、決して知る事はないでしょう?
あの時、今だけ、俺達はまるで友達のように、真にライバルのように、手を貸したり、貸されたりしても良いんじゃないかと、思ったんだ。
しかし気付いたのです。
私が貴方に捕らわれるような事になれば、
私は貴方に想いを伝えることをようやく許されるのではなかろうかと。
貴方のライバルと謳われることは最早叶わなくても、私は貴方を愛しているから、せめて友人でいたいのだと言えるのではなかろうかと。
巨匠の称号何かに興味はないのだけど、貴方の友人という立場は余りに魅力的だ。
いえいえ勿論伝えた所で全ては今更なのです。なぜならその時既に私は墓場へ送られているのですから。
けど偶に、それでも知って欲しいと思うんだ。天下の怪盗が聞いて呆れるか? 恋は人を駄目にするんだ大抵。名探偵は例外みたいだけど。
いっそ戻らなければ良いと、願った事どうかお許しを。
いつか私がビッグジュエルをこの手にして、解明と仇打ちを果たして、
そうしてそれから、貴方の手助けをして行きたいと、思ってしまったのです。
身体さえ私と対等になってしまえば、貴方は決して私の手など必要とはしないだろうから。
けれども同時に、同じくらいに祈っています。
あれ程焦がれ待ち続けた愛する人を、しかし犯罪者にはしておけないと私を抱きしめたあの強い人と、
いつか貴方が本当の姿で腕で唇で繋がるその未来を。
名探偵の幸せの前に、俺達の『対等』なんてちっぽけな問題はどうだって良い事だ。俺にもお前にも。
しかし現実に今、貴方がその短い手足を持て余して、否これでは足りないと、届かないとそう思っているその間だけは、
貴方の手が足りないその分だけ、私は貴方の力になれるのではないかと勝手に思っているのです。
対等なふりをしていられるのは今の内だけだから、私のこの、今は貴方より長い手脚、白い翼、400の知能指数、何の因果か鏡のようなこの容姿も、ビッグジュエルの為でない時は、全て貴方の為だけに使いましょう。
貴方が本来の姿を取り戻すか、私を殺して下さるその時まで。
草々 怪盗キッド
P.S. 何だか俺らしくもなく長々と書いてしまったけど、差出人の無い怪しい手紙何か名探偵は読んでくれないと思うので、やっぱり出すのは辞めとくよ。
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映画記念でアンニュイキッド独白。
堂々と正義やってる新一が羨ましいってか、憧れてるキッドさん。
162 死んでから成るのでは遅過ぎる