サンデー系

□Circle Days
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『ねぇ君、ちょっと良いかな』
『何?』
『今、君の家には誰かいるかい?』

『・・・ううん。今、家には誰もいないよ』

 今思うと、吐き気がするくらい稚拙な、下手な嘘だった。
 けれど、その些細な悪意は、僕の血の道の扉になった。





「なァ、糸目・・・。ずっと前に・・・こいつ倒すの協力しようって言ったよな」
「・・・・・・おう」
「俺は大丈夫・・・れーせーだから。手・・・貸してくれよ」
「―――・・・・・・なんだよ・・・、・・・それ・・・・・・」
 以前一度対峙した、腕は立つけど頭の方はサッパリの馬鹿が、君を背にして立ちはだかる。
「なんでそんな奴と手を組むんだよ・・・天邪狐ォ!!」
 僕が何度手を差し出しても跳ね付けた癖に! 連れが殺されたくらいで逆上するような奴と!! 何で!! なんで!?

 人を欺き、出し抜き、傷付け、たった独りで。
 そうしてまた適当に見繕った手駒と、孤児を集めてる田舎の鉱山に狙いを付けて、先んじて上手く潜り込んで、
 そこで僕は、君に出会った。

「どうして・・・どうしてお前なんだ。天邪狐を理解できるのは僕だけなのに! 僕しかいないのに!!」

 天の、邪な、狐。
 狐狸は古来から人を化かすとされる生物で、成程君にはぴったりの名だと思った。
 かつて官吏の名だったか知らないけど、残ったのは君1人で、今や君の為だけにあるその苗字を僕は半ば崇拝している。
 なのに『糸目』だとか、増して『空』なんて君を呼ぶ連中は皆死ねば良い。

「だから天邪狐には僕だけでいいんだよォオオォオォ!」

 翼で飛べる私は貴方達と同じ鳥の仲間ですよ。
 毛皮を持つ私は貴方達と同じ獣の仲間ですよ。
 そうして寝返りを繰り返した蝙蝠はやがて居場所を失って、暗い洞窟へ追いやられてしまったという。

 馬鹿馬鹿しいね。蝙蝠は、初めからどちらでもないたった1人だったんだ。
 深い業に焼かれて生まれ変わった、君達とは違う生き物なんだよ。
 そう。僕と、天邪狐だけが。

「あっ・・・ははははっ。バカ・・・だなっ、僕・・・・・・。また・・・騙されちゃっ・・・」

 ああ、やっぱり君は凄いなぁ。
 君は強いよ。僕なんか殺してしまえるくらいに。僕が見込んだ通りに。冷徹で。残虐で。
 いつかの再現みたいな光景だね。君と僕が、明確に袂を別ったあの日。

「―――・・・ねぇ、どうして・・・。どうしてわかってくれないのさ・・・」

 けれど、あの日と違って今の君は1人じゃない。
 良い嘘、なんて、その嘘で僕達は闇に落ちる事になったのに。
 だから僕らには、嘘でもって好きなように生きていく権利と力があるのに。
 僕は、君が強欲に、孤高に生きていく為になら、この命でさえも、あげたって構いやしないんだ。嘘じゃないよ。

「言ってよ・・・最期に・・・一言・・・僕らはトモダチだって・・・」

 だから最後に、君に僕を、捧げさせてよ。
 僕を殺して、血を塗り重ねた手で、孤独に強く生きていってよ。

「そしたら僕は救われる・・・ねぇ、頼むよ・・・ウソでもいいから!!」

 けれど、君は何も言ってくれない。
 僕ではない奴らの隣に居る事を、辞めない。
 漸く分かった気がした『良い嘘』は、僕にだけは向けられなかった。

 ねえ、何がいけなかったのかな?
 僕も、その馬鹿も、他でもない君だって、同じ人殺しじゃないか。
 いつかの桃色髪の女、帽子の医者、愚鈍な仔狸。
 ねえ、君達が優しい程に天邪狐は孤立するんだよ。
 違うとは言わせない僕と天邪狐は運命に選ばれた罪人だ。僕らは、陽の下で生きる事は出来ない。
 ・・・ああ、でも、きっとこれから君は変わって行くんだろうね。分かるよ。僕には止められないんだね。
 僕がこんなにも焦がれ、縋り、愛した君は、もう居なくなっちゃうんだね。

 もう良いよ。お前らはその腑抜けた偽物を精々慕うと良いさ。
 人殺しを厭わない君は僕が連れて逝く。

 そういう事にしておこう。誰も文句は言わないし。


 烏頭目の件があったとはいえ、ここを境に突然理由も無く空さんの中で殺人が絶対悪になった気がしてならない。



ね 冷たい雨のあと 透きとおるような空がキレイね
見慣れてるこの場所に 時折そっと舞い込んできたもの
最終回見忘れたドラマのようになくしたままで
好きなように創り上げ みとれてるよ
恋のはじまりのよう・・・ かな

by Circle Days (初出:18thシングル『君の思い描いた夢 集メル HEAVEN』)

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