サンデー系

□Happy Swallow
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 さくり、

 草が伸びた地面を踏む音は軽い。
「ただいま。父さん、母さん」
 並んだ石に向けて、微笑む。
「・・・燕も、久しぶり」

 故郷に戻るのも、何年ぶりだろうか。
 竜尾達と決着を付け、空達と旅立ち、ここのつを集めて神と対峙して、小四郎に着いて都で過ごして。
「あのな、俺の呪い、解く方法が分かったんだ」
 小四郎と共に、精神的な方法、物理的な方法、幾つも調べ、考え、試し、調べ直して、考え直して、
 あとは、俺が望みさえすれば呪いは解ける。
 というか、本当はもう解けていて、俺に名前を操る能力はもう無い。今の俺はただ変化を解いていない状態で、化ける為の条件が条件なので、一度狸に戻ったらこの先何かに化ける事はもう無いだろう。
 狸に戻ったら間違いなく非力になるし、不便にもなるかも知れない。
 それでも、両親から産まれ、君と過ごした本当の姿で生きていきたいから。
「今までありがとう、燕」
 そして戻るなら、君の命を、姿を貰ったこの地でと。
 ふっと力が抜ける。ぐるぐるぐる。渦が解ける。細胞全てがバラバラになる錯覚。俺の中の『君』が失われる感覚。
「・・・この姿、返すよ」
 もう、本当に休んで良いから。俺は大丈夫だから。
 さよなら。ありがとう。

 数十年もの間、俺を守ってくれたヒーローのかたち。





「さて、」
 長への挨拶も済ませ、これから先の事を考える。
 竜尾と猯は相変わらずらしいが、流石に顔を合わせる気にはなれなくて、呪いを解く方法を伝えて貰う手配だけを頼んだ。
 きっとまだ、ここへ帰るには早い。
「・・・取り敢えずは、ちっちょリーナの所だろうか」
 別れた時はまだ幼かった許婚は、きっと美しく成長している事だろう。ちっちょリーナが生まれた時には俺はとうに呪われていたから、本当の姿を見せるのは初めてになる。
 会えば空と揉めてしまうのは多分どうしようもないな。苦笑する。
「じゃあ、行ってきます」

 いつかのように告げて、4本の肢で強く地面を蹴った。





「―――」

「!」
 里から離れて暫し、並外れた聴力を失った筈の耳に何かが聞こえた気がしてばっと振り返った。
 辺りを注意深く伺うと、風に乗って鉄錆の匂いがした。町外れの、農具倉庫、だろうか。傍に、紺碧の翼を血に染めた燕が横たわっている。近付くと痙攣のように小さくもがいた。
( ああ、これは、もう、)
 燕は、蜻蛉の死骸を咥えていた。見上げると、屋根の縁の巣の中。4羽の雛鳥が、何かを察したのか鳴きもしないでこちらを見下ろしている。
「・・・」
 親鳥は、まだ辛うじて息があるようだった。小四郎ならば、或いはどうにか出来るのかも知れないが、俺にはどうしようもない。
 ・・・いや、
「すまないなちっちょリーナ、もう少し、・・・この夏の間だけ、待っていてくれ」
 燕の艶やかな額の深紅に鼻先を寄せる。

「さあ、後は俺がやるよ。・・・ゆっくりお休み」

 親鳥はそのまま動かなくなって、俺はその嘴から蜻蛉を受け取ると、紺青の深い夏空に向けて飛び立った。


 命を貰って化けるっていうのは、その相手を引き継ぐって事なのかなぁとか。
 九十九さんとかリリーとかまみちゃんは数十歳超えてるんよなと思っては震える。



そっと見せ合ったちょっと恥ずかしい古いダイアリーのような日々が
大きく羽ばたいて転がったら宇宙の路地に迷い込んでゆくよ
真っ赤な日×3 もっと 大げさに×2 駆け巡れ!
解けた×3 僕はクルリとこの空 宙返り

by Happy Swallow (初出:35thシングル『Nostalgia』)

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