ジャンプ系
□私を見つけてください
1ページ/1ページ
「お早う」
「早いなシュージン」
サイコーがシャーペンを走らせながら目線だけを上げる。まだ明るくなってからそう経ってない。
「サイコーこそ早いじゃん。絵の練習?」
「うん。やっぱりギャグタッチ難しいよ」
シャーペンが滑る音は控えめなテレビの音声にそれでもかき消される。ちらりと目をやれば早朝らしく硬い声で淡々とニュースを伝えていた。
「『タント』の文章原作出来たから、こっちでネーム描こうかと思ってさ。香耶ちゃんも昼には来るって」
「そっか」
あ、そうだ。俺の声に、サイコーが原稿に戻しかけた視線を引き上げる。
「駅の本屋で早売りしてたから、『CROW』の19巻とファンブック買って来た。あと朝飯も」
「あ、ファンブック第2弾の発売って今日だっけ」
見せて。サイコーがシャーペンを置くのを見て差し出した。
「また分厚いな・・・」
「そうだな。少なくとも設定資料と、あと番外編は書き下ろしって帯に書いてある」
『CROW』と、新たに始まった『+NATURAL』の作画を1人でこなしながら。
「・・・」
サイコーは目を細めて表紙を眺める。黒をベースに赤と黄を挿した勢いのあるデザインで、19巻の表紙と構図が対になった凝ったものだった。
「10年に1人・・・か」
ぽつと呟く。
エイジの才能の事だろう。確かに、彼の能力は尋常ではない。
でも、それはサイコーだってそうだと、俺は思っている。『10年に1人』が、たった1人だ何て一体誰が決めた。
「そう言えば、」
サイコーがファンブックに目を落としたまま口を開く。
「ん?」
「さっきニュースで、白いカラスが見付かったって言ってた」
「へぇ、珍しいな」
まぁあれだけ居るカラスだから、アルビノのやつだって1羽や2羽居てもおかしくない。ただ元がひたすら黒いイメージなだけに『そいつ』は相当鮮烈だろう。
・・・例えば、新妻エイジのように?
サイコーの手の中で、漆黒の衣装を纏ったクロウは悠然と笑っている。
「シュージンも、色素薄いよな」
ふいに矛先が向いて、ぴくと肩が震えた。
「あ、ああ。もう何回地毛だって弁解したか」
「シュージン優等生だし、染めてたって不問になりそうだけど」
サイコーが何気無く返して、まあね、と少しおどけて答えてみた。
( ましろ )
2重の意味を込めて、音も無く呟く。
鮮烈なのはサイコーの方だ。同じ形の固体達の中で、彼はどうやったって俺の目を引いた。
それはそう白く何てなくても。
そこまで考えて、ふと思い至る。
アルビノは別に、『白』という特別なものを持っている訳ではない。
彼らは逆に、色素が欠乏していることでもって白いに過ぎないのだ。
白いカラスは、与えられなかった色素の代わりに、『与えられない』という特別を与えられたのだろうか。
もし俺が白いカラスだったら、きっとその特別を誇る事も悲観する事もなく、ただ事実として受け止めるだろう。
そしてその、本当は何ら特別でもない異質を目一杯広げて、お前の傍に舞い降りるんだ。
そしたら今度はサイコーの方が、俺のこと見付けてくれるかなあ。
+
いつだったか東京で白いカラス見付かったよなと思いつつ。ファンブック云々はキャラマン参照。
サイコーは1頁でシュージンが話しかけたあの瞬間まで心の底からシュージンの事ノーマークでしたよね。