ジャンプ系

□悔いを残すな、最初で最後の告白だ
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「僕はお母さんの道具じゃない!」

 あの日の叫びが、何度でも耳に蘇る。
 俺の、最初で最後の意思表示。





 元々父はリストラされて以降めっきり喋らなくなってたし、あれから母も俺とは必要最低限しか会話しない。兄は大学に受かったらさっさと家を出て行ってしまった。
 俺は、あんな事言っといて何だけど勉強は嫌いではなかったから、日々何をしているかというと結局は勉強していた。
 クラスで浮かない程度にはテレビも観るしゲームもするしカラオケにだって付き合うけど、その辺よりは勉強の方が好きだった。
 無駄でない物は好きだ。だから読書も好きだし、感想文書くのも好き。
 そして何時からかそれとは別に漫画が好きで、何時の間にか本棚には参考書と同じくらいに漫画が並んでいた。
 夢物語は嫌いなのに、夢があるなあ、何て人並みに思っていた。

 兄貴みたいに友人と遊ぶのを楽しめないのは、友人が余り好きでないからなのだと思う。
 だってクラスメイト何て馬鹿ばっかりだ。中学生ってこんなもんか。
 ヒューマンウォッチングは好きだから、1歩引いて眺める分には楽しかったけど。
 そんな日々が続いてたけど、3年に上がってからはちょっと登校が楽しくなった。

 亜豆美穂。そして真城最高。
 あいつらは頭が良い。見ていて直ぐに気付いた。
 上手く同調して見せてはいるが、どこかが確かに周囲と異質。
 俺と、同じ匂い。

 運良く一番後ろの席になって、バレないようにと気を使いながら、ひたすら2人を見詰めていた。
 結果、真城はどうだかよく分からないが、どうやら亜豆は真城を好きなようだった。
 しかし何一つ行動には移さない。決して表には出さず、しかし本当は真城だけを見ている。
 真城の方はあんまり女に興味がないのか、冷静な瞳をしている癖に、何時だって何を見ているのかは良く分からない。
 彼女は、彼は、余りにも、

 俺の理想の男女だった。





「僕はお母さんの道具じゃない! 自分の将来は自分で決める!!」

 4年前のあの瞬間が、俺の初めての意思表示だった。
 けれど俺の意思は投げつけたっきり帰っては来なかった
 俺はただ、俺にも感情があるのだと、言いたかっただけなのに。

 自分で決める。何て宣言しておきながら、唐突に母から手放された俺は行く先を見失った。
 ただ漫然と、どうせならでかいことがしたいと、母の敷いた堅実で理想的な道とは対極の、それでも厳しい道へ進んでやりたいと、何か、意地のように思っていた。

 先の見えない俺の人生、それに使えたらもう良いかな、何て。





( あ、やっぱり忘れてる )

 教室が無人になるのを待って真城の机を覗くと、数学のノート一冊だけがぽつりと取り残されていた。

( 授業中、何か描いてたよなー )

 悪いとは思ったが、真城に対する俺の好奇心は我ながら尋常じゃない。まあ、こっそり見て戻すだけなら、誰にも迷惑はかからないだろう。

( 絵、だよな。多分 )

 明らかに数式を書くのとは違う、手と視線の動き。
 そう言えば何時だったか真城が表彰されていたのは、ポスターか何かだったような。
 ぱらぱらとノートを捲くる。意外と乱雑に纏められた数式達の、その、先。

 聞いている振りをしながらさして興味を持っている風でもない、亜豆の横顔。

 シャーペン1本で、授業の合間、クラス全員の視線の合間に描いた少女。
 何故か、涙が出そうになった。
 俺には絵の良し悪しは少しも分からない。なのに、そう何か、魂みたいなものを、
 彼や、彼女の存在に気付いた時と同じ、俺の理想を、

 ああ、見つけた。





( 一旦家に帰って、鞄開けて、引き返して・・・。そろそろかな )

 ガラッ

 ほら、ビンゴ。

 俺に気付いた真城が控えめにしかし訝しげにこちらを見詰める。
 何故そこに居るのかと、何故自分を見ているのかと、それを分析するのに必要な、知る限りの俺に関する情報を並べながら考えている。

「安心しろよ。ノートは返すし、この中の秘密は誰にも言わない」
「それはどーも」

 平坦な声で返して、真城が手を伸ばす。
 この細い腕が、指が、あの画を生み出すのか。

 あれが世に出ずに終わるなんて、誰にも知られないでいるなんて有り得ない。

「ただし、ひとつ条件がある」
「何?」

 まだ、最後何かじゃなかった。
 今度は決して後悔しない。今度こそ、これが最後でも構わない。
 4年前のあの言葉さえ、きっとこの瞬間の為。

「俺と組んで漫画家になってくれ」

 俺の、2度目の意思表示。


 初心に返って1ページネタ。
 シュージンが本気で自分の意見を押し通したのってこの2回くらいじゃないのかなーと。

Title by melancholic

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