ジャンプ系

□後日談
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 漸く、左目の手術が終わった。
 治療には数ヶ月を要し、その間に黒子も書類の上でだけは中学を卒業して。
 角膜が傷付き人工の網膜を埋めた瞳は色素を失い、結局視力も殆ど無くなってしまった。
 もう一度精神科医に復帰出来るかは分からない。それはショックだったけれども、それよりも当面、俺は黒子の事が気がかりだった。

 かつてその恵まれない体格をものともせず、全身全霊でバスケを愛した少年。
 不利な条件でも決して諦めず、バスケの名門高に入学して苛烈な練習に試合に無理を重ねて挑み続けた。
 その結果、彼の身体はバスケに使える状態では無くなってしまって。
 どうにか日常生活に問題無い程度に回復したその事実も、全霊で愛したバスケから裏切られた心を癒すには至らなかった。
 人では無いもの達をチームメイトとして慕い、しかしその閉じた世界ですら理想通りに生きられずに苦しんでいる哀れな少年。
 俺の初めての患者である彼を救う為なら、何でもしてやりたい。俺の目など幾らでも差し出そう。
 重い心持ちで、漸く面会の許可を得た黒子の病室の扉を開く。

 彼は、全てを予想していたみたいに俺の真正面に立っていた。

「お久しぶりです。赤司君」
 顔を上げた黒子は、俺と会うのが『久しぶり』だと認識していた。
 今まで、出張何かで暫く会えなかった時でも、彼とは『毎日』会っている事になっていたのに。
 まさか、まさか。
「黒子・・・、俺が、分かるのか?」
 声が震える。
 治ったのか?

 この現実に、帰って来て、くれたのか?

「ええ」
 真っ直ぐに、俺を見据えて。
「中学以来ですね。やっとここまで来ました。負けませんよ」
 黒子は挑むように笑った。酷く満足そうに。

 ・・・ああ、君は、もう、

 黒子を見詰め返す。
 彼は目の前に居るのに、一度だって本当に俺を見てくれた事なんて無かった。
 俺がどんなに親身に、躍起になって治療に当たっても、与えられたのは傷と絶望だけだった。

 けれど、今分かったよ。もっと簡単な方法。

 俺はどうしても君と一緒に生きて行きたかったんだ。
 同じ世界で、君と。
 そうだ。黒子が帰って来てくれないのなら、それ程に、帰りたくないというのなら、

 俺が、君の所へ行けば良い。

 俺は、君の元チームメイト。
 今は、君に打ち倒されるべき最強の敵。
 黒子の背後の窓から強く夕日が射した。正常に機能しない左目が光に眩む。

「さよなら」

 小さく呟いた。
 ああ、嗚呼、さようなら。
 精神科医で、黒子の担当医だった『俺』。
 強く目を閉じて、紅い光を、病室の光景を、『現実』を遮断する。

「・・・僕は負けないよ。かかっておいで、テツヤ」

 次に目を開けばそこは、眩く輝くコートの上。


 引き摺られて病んじゃう赤司君でした。

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