イナズマイレブン

□天界よりもあたたかな
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 ベッドにぼんやりと半身を起こしているのは、全身に深い傷を負って尚美しい少年だった。
 彼は円堂が直ぐ隣まで歩み寄って、初めてその存在に気付いたように顔を上げた。

「だれ・・・?」
「えっと、俺、雷門中のさ、円堂守って言うんだ」
 お前がアフロディだよな。
「うん・・・。えぇと、雷門・・・って・・・」
 半分夢見心地に喋る亜風炉に円堂は微かに眉を寄せた。
「フットボールフロンティア、優勝の・・・?」
「うん。そう、何だけど」
 聞いた亜風炉は、夢から覚めたように目を見開いて円堂を見上げた。
 白い病室に、鮮やかな橙。

「何・・・君は、何で、僕、」
「鬼道から聞いたんだ」
「鬼道・・・君・・・? ああ、帝国の・・・」
 納得したように一度頷いた後、亜風炉は再度何故と問うた。全く面識のない筈の円堂が、果たして自分に何の用かと。
 円堂は少し困った様に眉尻を下げて、えっとさ、と呟いて口籠る。
 鬼道から伝え聞いた、美しくも傲慢で恐ろしい試合の様と、今目の前でベッドに縛られている少女じみた顔とが、上手く重ならない。
 最も、36点も入れられてチーム丸ごと入院させられれば、それも無理からぬ話かも知れないが。

「本当なら・・・って言い方変かな。でも、本当は、俺達、お前らと決勝戦う筈だったんだって」
「・・・?」
 王牙学園は雷門のフットボールフロンティア優勝を阻止する為に80年後の世界から送り込まれたチームで、それさえなければ世宇子は難なく決勝へ進み、最終戦は雷門と世宇子によって行われる筈だった。しかしそんなことを説明しても亜風炉には伝わらないだろうし意味も無い。思った円堂は詳しくは語らなかった。

「えっとさ、とにかく俺達、お前らと戦えなかったから、怪我が治ったら、改めて試合やらないかなって」
 笑った円堂に、亜風炉は顔を歪めた。
「僕なんかと、今更戦ってどうするの」
「え、どうって、」
 困惑する円堂を、亜風炉はきつく睨み付けた。
「だって、僕は神なんかじゃなかった!」
 唐突に大声を上げた亜風炉に、円堂は面食らう。
「僕は、神なんかじゃない! 総帥も居なくなった! 神のアクアも無くなった! 僕には・・・っ」
 もう、なんにもない。
 ぽつりと呟いて、亜風炉は深く俯いた。

「・・・何、言ってんだ?」
 『総帥』の意味も、『神のアクア』の意味も分からないだろうに、酷くあっさりと返された台詞に、ゆるゆると亜風炉は顔を上げる。
「お前は、神様なんかじゃねぇよ。お前も、バダップだって、人間だ。まぁ、俺は、神様とでも、鬼とでもサッカーしてみたいけどさ、」
 一度言葉を区切った円堂は、再度笑いかける。亜風炉の視線が、釘づけになった。

「同じくらい、お前とも戦ってみたいよ」

「・・・でも、僕は、」
「何にも無い何て、言っちゃ駄目だ。お前がサッカーを手放さない限り、サッカーだって、お前を見捨てない」
 言い切った円堂は、亜風炉が薬に頼っていた事を知らない。自分は何をやってでも勝てば良いと思っていた。自分が原因で帝国の選手が入院したと聞いても、全く他人事だった。
 言えば円堂は、それでも同じように言ってくれるだろうか。
 今更、間違いに気付いて、今になって、サッカーを好きになった何て言っても、許されるだろうか。
「それに、お前もキャプテン何だから、ちゃんとチームメイト大事にしなきゃ」
「キャプ、テン・・・」
 そう言えば、円堂も雷門中のキャプテンだったなと、亜風炉は影山から支給されていた資料を思い返した。
 同時に、平良や出右手、チームメイトの存在を思い出す。酷く懐かしい様な気がした。

「会いに行くか? 俺、付き合うよ」
 点滴台に片手を添えた円堂が問いかける。
 自分は沢山のものを失ったけれど、彼の存在は、それでもってここにある。
「どうして・・・」
「ん?」
 どうして君みたいな人が、今、ここに現れたのだろう。

 差し出された手に、亜風炉は恐る恐る細い手を重ねた。
 伝った温度は、影山の声よりも、神のアクアの味よりも、ずっと心地好いもので、亜風炉はそこで漸く声を上げて泣いた。


 オーガにボコられたまま放っとかれたらこの子死んでしまうんじゃなかろうかと思って・・・。
 何だかんだFFI開始くらいには歴史も概ね同じ所へ落ち着きそうな気がします。

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