イナズマイレブン

□エンディングに向けて
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 赤みがかった茶髪を垂らして鏡を覗く背中は華奢で美しい。
 鏡はその端正な顔ではなく、下界の一端を映し出していた。

「セイン」
「・・・ギュエールか」
 セインは緩慢な動作で振り返った。
「また下界を見てるの」
 人間界を。否、『彼』を。
 セインは少し照れたように笑って、また鏡に向き直った。
「明日は、円堂君、FFIの決勝戦なんだ。相手のチームは、彼のお祖父さんが育てた子達何だそうだよ」
「そう」
 セインは夢見るようにふわふわと語る。円堂達と『天空の使途』として、或いは『ダークエンジェル』として戦った後のセインは、サッカーの鍛錬以外の時間の大半をここで過ごしていた。

「もう直ぐ、FFIは終わるわ。そうしたら、円堂さん達はライオコット島を離れてしまうのね」
「そうだね。でも、私は今暫く、彼を見守ろうと思う。きっと、得る物がある筈だから」
 セインは愛おしげに鏡面に触れた。鏡の向こうの円堂守は、もう天界や魔界に関わった事すら忘れたような表情で、仲間達とひたすらサッカーに打ち込んでいる。
「・・・セインも、人間だったら良かったのにね」
 そうしたら、ライオコット島に、マグニード山に、このヘブンズガーデン何かに、縛られずに、彼と一緒にサッカー出来たのにね。
「何故」
 セインは心底不思議そうに問い返す。
「私は、天使に生まれて幸せだよ。ここでこうして、円堂君をずっと見ていられる」
 それに私が人間だったからといって、彼が私に価値を見出してくれるとは限らないよ。セインは私の胸中を見透かしたようにそう続けた。
「セインは、円堂さんが死ぬまでそこでそうしてるつもり?」
「まぁ、可能な限りね。これは、私が天界に生まれた特権だ」
 意図して『死』という言葉を使ったが、セインは動じなかった。
「彼の限りある時間から、なるべく多くの物を私が引き継ぎたいのだよ」
 セインは美しく笑う。それは、彼が何一つ理解していない証でしかない。

 円堂守の寿命なぞ、精々後60年か、70年か。
 けれどもその短い間にセインは益々彼への想いを募らせ、それが自分にとって正に働く物だと強く信じ込む。
 そうして彼が死んだその時、初めて動揺し、自身が動揺した事に動揺するのだ。

 天使なぞ、基本的には皆馬鹿で楽天家だ。
 千年先の事は漠然と考えていても、1週間先の事は何も考えていない。
 だってそんなに短いサイクルで生きていたら、私達の膨大な命は確実に持て余される。
 セインはその中で例外的に、異常なまでに、真面目で、几帳面で、感情的で、そして酷く弱い。
 その事に、セイン自身は気付いていないけれど。

 円堂守が死んだその時、セインはどれ程ショックを受け、落ち込み、狼狽するだろうか。
 天使であるその身をどれ程呪うだろうか。そうしてしまう自分を嫌悪するだろうか。

( ・・・今なら )
 今、円堂守が消えれば、セインは酷く悲嘆に暮れ、そしてあっさり立ち上がり彼の言葉を重んじるのだとか言い出して魔界との和解へ向けて一層熱を上げるのだろう。
 今ならまだ、間に合う。セインは、自分が脆い事を、知らないままで居られる。
 けれど、それが悲劇の前兆だとしても、今のセインは余りに幸せそうだった。私がどれだけ彼を慈しみ愛しても、彼は自分に与えられた使命以外に何一つ関心を示す事は無かったのに。

( まぁ、良いわ )
 60年もあれば、きっと上手い慰めの1つも思い付くだろう。
 今はまだ、この愛らしい笑顔を眺められる喜びを享受していれば良い。


 要望頂いたんでセイギュを書こうとしたら円←セイ←ギュになった。
 何かギュエールちゃんお母さんみたいな・・・。ゲーム版のギュエールも気になります。

298 短い、とても短い

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