イナズマイレブン

□隣に私は立てたのでしょうか
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「あ、一乃先輩! お早うございます!」
 名を呼ばれて振り返ると、松風がこちらへ駆けて来るのが見えた。
「ああ、お早う松風。どうしたんだ? 今日は朝練無いだろ?」
 昨日、ホーリーロードの地区予選決勝を勝ち抜いたばかりの雷門サッカー部は、今日は朝連だけは休みになっていた。神童達の姿の無いグラウンドはがらんとしている。
 けれど何処から走って来たのか、息を切らせた松風はユニフォームを身に付けていた。
「新しい技、練習したくって」
 何だかじっとしてられなかったんです。それに、
「先輩も、人の事言えないじゃないですか」
 新たに背負った13番のユニフォームを指摘されて苦笑する。
「・・・相手しようか?」
「え?」
「スパイラルドローの練習するんだろ? 俺も一応ミッドフィルダーだし、俺からボール取ってみる?」
 足元のボールを爪先で転がす。
「良いんですか? じゃあお願いします!」
「来い!」
 ひとしきりボールを奪ったり奪われたりしつつ、直接やり合うと松風の凄さが良く分かる。
 化身使いと互角に渡り合い、先日遂に自らも化身を具現化させるに至った彼。

「もう直ぐ始業だし、ここまでにしようか」
「はい。ありがとうございました」
 連れ立ってロッカールームへ向かう。セカンドチームが使っていたロッカールームは少し離れた場所にあったので、俺と青山は新しくこちらにもロッカーをあてがわれていた。
「やる気があるのは良いけど、松風は昨日無茶したばっかり何だし、休むのも練習だよ」
 今更帰って来て、それでもベンチから見守るしか出来ない俺とは違うのだから。
 着替えを終えてユニフォームを手に取る。青と黄の鮮烈なコントラスト。
「・・・このユニフォーム、ずっと憧れだったんだよな」
「一乃先輩?」
「最低だけどさ、俺、このユニフォーム着れて嬉しいんだ」
 それがセカンドチーム以下の全員と、ファーストチームの一部すら犠牲に成し得た結果だとしても。
 声が途切れて、沈黙が降りる。松風が戸惑っているのは分かるのに、言葉が出て来ない。呼吸すら危うくなりそうだ。
「でも、」
 意図してか、松風が明るい声を出した。

「セカンドのユニフォームも格好良かったですけど」

 今度こそ、息が止まった。
「ほんと、雷門ユニフォームって格好良いですよね。俺、殆どその為にこの学校来たんですよ」
 単身赴任の両親と離れ、サッカーが好きな癖に雷門が名門である事も殆ど理解しないまま、稲妻の校章を追って校門を潜った。
 そこにあるのが、どんなサッカーでも構いやしないと。
 どの道、彼はきっと自分で進む先を切り拓くのだ。最初、誰の手も借りずに管理サッカーに反旗を翻したみたいに。

「ほら先輩、急がないと授業始まっちゃいますよ!」
 前を行く松風の背中は遠い。
 最早、俺なんかとは次元が違う。恐ろしさこそ無いものの、それは初めて剣城に圧倒されたあの感覚と相違ない。
 ファーストチームのユニフォームを手にした所で、風を切って突き進む彼に並ぶ事は出来そうもなかった。

 もしシードが送り込まれたのがあの日で無かったら、
 サッカー部に入部した君はきっと、すぐセカンドチームのレギュラーに入って、俺なんか押し退けて、
 そして俺の憧れた鮮やかなユニフォームを手に、チームから去って行ったんだろう。何一つ未練何か残さず、神童達の輪へ飛び込んで行く君の背中を、俺は見送る羽目になったに違いない。
 けれど、例えそれがほんの一時だとしても、

 俺と君で、セカンドの2トップ何て言われてみたかったな。


 青山君と一乃君は何気に体よく出世したよなーと思う。
 まぁ最初に辞めずにファースト入りするのがベストだったろうし、セカンドのトップとファーストで空気なのとどっちが良いかって相当微妙ですが。

Title by melancholic

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