イナズマイレブン

□ひとりぼっちのグレーテル
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「ゴッドエデン?」
 携帯を耳に当てたまま、丁度開いていたパソコンに、空いた片手で殆ど無意識に聞いた字面を打ち込む。
 ついでに検索をかけたが、部分一致の実の無い見出しがぞろりと並んだだけだった。
『ああ。吹雪がずっと調べてたんだ。詳しいとこは良く分からないんだけど、やっと場所が分かったって。今は無人島の筈なのに、どうもヘリや大型船が頻繁に出入りしてるとこがあるんだ』
「ふぅん。それは怪しいな」
 フィフスセクターがひた隠しにする、隔離された『上』の訓練施設。
『それで俺、そこの調査に行こうと思ってるんだけど、』
「お前、雷門中の監督なんじゃなかったか」
 なあ円堂。名を呼べば、そうなんだけどさ、と円堂は幾分沈んだ声で苦笑した。
『でも放っておけない。サッカー部の方は・・・もう、鬼道の方が適任だと思う』
「・・・ま、お前が言うならそうなのかもな」
『うん。色々、半端になって悪いとは思うけど、まだ確証も無いし黙って行くつもり』
 それは、どうなのだろう。まだほんの短い期間とはいえ、円堂に導かれた今のサッカー部員達が。円堂に尽力しようと名乗りを挙げた鬼道が。
 それ程お前を軽んじている筈は無いのに。
「・・・仕方ないなぁ」
『風丸?』
 きっと分かっていて、それでもじっとしてられないのだろう。お前は、本当に根っこの所は何も変わらない。
「俺も、協力するよ」
 お前のその気合い、乗った!何てね。





「久しぶり皆。・・・その、シーズン中なのに、ありがとな」
「気にしないで円堂君。お互い様だよ。それにこれは、僕達皆の問題なんだから」
「そうッス。水臭いッスよキャプテン」
「つーか、吹雪が持ちかけた話何だろ。大体、お前どうせ休養中だったじゃねえか」
「ふふ。まあね。不動君達の愛には負けるよ」
「・・・」
 吹雪の軽口に、不動が忌々しそうに顔を顰めた。
 ああまるで、あの頃のようじゃあないか。円堂の言葉に、皆が集う。

 密かにゴッドエデンに上陸し、先ずは落ち着いて拠点に出来る場所を探そうという事になった。何日ここで過ごす事になるか分からない。
「全く、サッカー部も奥さんも放っぽり出して。自己中なんだか責任感有り過ぎなんだか」
 念の為、印を残しながら森へ踏み入る。少し後ろを付いて来ていた不動が、奥さん、の響きに微かに反応した気がした。
「そういえばお前、久遠と付き合ってるんだってな」
 がり、手近な木の幹に傷を付ける。
「・・・ああ」
 存外あっさりと、不動は認めた。
「つっても、俺は殆ど海外だけど」
「はは、円堂何か、結婚してた癖に怪我で戻ってくるまでは海外だったじゃん」
 まあ、あいつは雷門も連れてあっちに住んでたけど。

「久遠も馬鹿だよなぁ。そしたら円堂は安心して、祝福して、それで、終わりじゃないか」
 そっか良かったなきっと上手く行くよ応援してるおめでとう。
 そんな、これっぽっちも求めていない言葉達だけを押し付けられて。
「・・・そうだ。久遠は、そうなりたいと、言った」
 不動は一瞬俺の言葉に怯んだようだったけど、平坦な声でそう返した。
 幸せになりたいと、強くなりたいと、久遠は語ったという。
 そんな彼女を見て、不動は迷った末に、手を差し伸べる事を選んだのだと。
 俺の直ぐ隣に居るのだとばかり思っていた彼女は、そうして不動に手を引いて貰って、新しい道を歩き始めていた。
「まぁ、・・・そうだな。円堂は俺が彼女の1人も作れば、安心してくれるんだろうけど、」
 『俺の不幸』という、どう考えても余計で無用な重荷を、漸く下ろせるのだろうけど。

 でも、俺を置いて行ったお前の願いなんて、叶えてあげない。

 いつか取り返しが付かないくらいに離れてしまった後、ふいに振り返った先の俺が、それでもお前だけを見ている事に気付いた時、精々後悔すれば良い。
 お前だけが、俺を置いて幸せになるんだ。
「だって、円堂が居なくて、俺の幸せに何の意味がある? 例え、円堂にとってそうでなくても」
「・・・お前を見てると、俺の選択は正しかったと思うよ」
 不動は呆れたように、或いは哀れむように目を細めた。
 別に、久遠と不動がどうなろうが俺には関係がないから、勝手に幸せになればいいと思う。俺がそれを許さないのは、この世でたった2人だけだ。
 日が落ちようとしている。何時の間にか不動の姿は無い。帰る道は、どっちだったろうか。薄闇の中に導は見えない。俺一人の影が、やけに黒々と地に落ちている。

 弱さを自覚したこの心が、いつ引き攣れて壊れるか。俺は密かに思い、まるでその時を願うように、祈るように目を閉じた。


 硝さんよりリク頂いた『風冬似た者同志設定の不冬恋人設定でそれを知っている風丸と不動』です。
 映画で折角一緒に居たので劇場版設定で書かせて頂きました。否応無く微鬱エンド。
 突き詰めた所、風丸さんは円堂さんを恨んでいるのかも知れない。

Title by melancholic

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